研究課題
若手研究(B)
地球核は,主に鉄からなり,それに加えて軽元素が含まれる.本研究では硫黄を軽元素として着目し研究を行なっている.地球核条件を再現するために100万気圧(GPa)を超える圧力を発生させる必要があり,ダイヤモンドアンビルセルと呼ばれる装置を用いている.試料部は直径0.1 mm以下と小さく,放射光を用いて試料から情報を得る.そのため放射光施設SPring-8においてその場観察実験を行った.本研究では鉄-硫黄系において200 GPaを超える条件において安定な相や融解関係を調べ,地球核の温度や安定な物質を調べた.また,100 GPaを超える条件下で実験を行う場合,試料室内の静水圧性も重要な条件であり,地球内部と同じ静水圧性の高い実験を行う必要がある.本研究では圧力媒体についてその静水圧性を調べた.鉄-硫黄系の相平衡を現在までに170 GPaまで融解関係を調べ,220 GPaまで相関係を調べたが,本研究ではさらに高い圧力条件,230 GPa程度で実験を行った.また,圧力媒体の静水圧性を調べるために,アルカリハライド(KBr, KCl, NaCl)を圧力媒体として金箔を加圧し金の圧力スケールから試料内部の圧力分布を調べた.さらに約50, 70 GPaにおいて金箔をレーザー加熱によるアニールを行い,アニールによるリラクゼーションやそれぞれの圧力媒体の断熱性を調べた.その結果,静水圧性については,いずれのアルカリハライドも似た性質を示した.B1からB2構造への相転移に伴う細粒化により一度静水圧性は改善されるがその後加圧とともに試料内部の圧力分布が発生した.しかし,アニールを行うとその圧力不均質が改善された.熱伝導率についてはKBrやKClがNaClよりも低出力での加熱が可能であったことからKBrやKClのほうが小さい.現在,この結果を解析中であり,今後学会や国際誌に研究成果を発表していく.
2: おおむね順調に進展している
鉄-硫黄系の研究に関して,200 GPa以上での条件で融解関係や安定相を調べた.現在までに200 GPa以上での実験を放射光施設において行った.Fe+FeSを出発物質とした実験ではFe3Sの合成は確認されず,Fe+FeSのままであった.これはOzawa et al. (2013)にて報告されたFe3Sの分解結果と整合的である.また,Fe3Sの分解を直接確認するためにFe3Sを合成したのち200 GPa以上で実験を行った.現在までのところ,加熱中にダイヤが割れたため,Fe3Sの分解を確認するに至っていない.ダイヤを割らずに実験を成功させることが今後の課題である.圧力媒体の静水圧性を調査した研究では,現在までにKBr,KCl,NaClを用いた実験を行った.いずれも体積弾性率(物質の硬さを表す定数)が小さく,他の固体物質よりも圧媒体として優れていると考えられる.試料には0.005 mm程度の厚さの金箔を用い,圧力媒体にアルカリハライドを用いた.圧力媒体は断熱材も兼ねており,厚さは金箔の上下に0.01 mm程度の箔を置いた.実験の結果,NaClを圧媒体として用いた場合が最も静水圧性がよかった.また,約50,70 GPaのときにレーザーを用いてアニールを行ったが,KBrやKClを用いた時が最も加熱しやすく,NaClの時は加熱するためにより大きなワット数を投入する必要があった.このことから断熱性はKBr,KClが優れていることが分かった.以上のように,研究を進めてきた.鉄-硫黄系の相平衡実験では,満足のいく結果ではないが,今後アルカリハライドの静水圧性や断熱性の研究結果と合わせ,より高温高圧の実験を成功させることが可能と考えられるのでおおむね順調であると判断した.
初年度の研究成果によって判明したアルカリハライドの断熱性や静水圧性を考慮し,KBrを断熱材と圧力媒体として用いて高温高圧実験を行っていく.また,次年度での研究計画にあるように,高圧実験に用いているダイヤモンドのデザインの検討を行っていく.これによって200万気圧を超える条件での実験において割れにくいダイヤモンドデザインを決定する.前述したようなデザインを改良したダイヤモンドとKBrを断熱材と圧力媒体として用いて放射光施設SPring-8にて高温高圧下でのその場観察実験を行う.鉄-硫黄系において200万気圧以上300万気圧までの条件で実験を行う.鉄-硫黄系について内核条件まで実験を行った後,鉄,硫化鉄などの端成分の実験を行う.これは250万気圧以上では鉄と硫化鉄が共存する相関係となる可能性があるためである.これらに加えてFe3SやFeS,FeOなどを放射光メスバウア分光法により磁性・スピン状態などを明らかにし,地球核物質の物理的特徴を明らかにしていく.
平成25年度中に予算を全額使用したが,支払が平成26年度に残ったことで未使用額が発生した.平成25年度分の予算はすでに執行済みであり平成26年度分として使用しない.平成26年度分予算は,主に旅費や実験消耗品であるダイヤモンドなどに使用予定である.
すべて 2014 その他
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (22件)
Physics of the Earth and Planetary Interiors
巻: 228 ページ: 106-113
10.1016/j.pepi.2013.11.001
American Mineralogist
巻: 99 ページ: 98-101
10.2138/am.2014.4463