研究課題/領域番号 |
25800291
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
鎌田 誠司 東北大学, 学際科学フロンティア研究所, 助教 (30611793)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 高圧 / 高温 / 鉱物物理学 / 放射光メスバウア分光 / ダイヤモンドアンビルセル / 静水圧性 |
研究実績の概要 |
地球核は,主に鉄からなり,それに加えて軽元素が含まれる.本研究では硫黄を軽元素として着目し研究を行なっている.地球核条件を再現するために100万気圧(GPa)を超える圧力を発生させる必要があり,ダイヤモンドアンビルセルと呼ばれる装置を用いている.試料部は直径0.1 mm以下と小さく,放射光を用いて試料から情報を得る.そのため放射光施設SPring-8においてその場観察実験を行った.本研究では鉄-硫黄系において200 GPaを超える条件において安定な相や融解関係を調べ,地球核の温度や安定な物質を調べた.また,100 GPaを超える条件下で実験を行う場合,試料室内の静水圧性も重要な条件であり,地球内部と同じ静水圧性の高い実験を行う必要がある.本研究では圧力媒体についてその静水圧性を調べた. 鉄-硫黄系の相平衡を現在までに170 GPaまで融解関係を調べ,220 GPaまで相関係を調べたが,本研究ではさらに高い圧力条件,230 GPa程度で実験を行った.また,圧力媒体の静水圧性を調べるために,アルカリハライド(KBr, KCl, NaCl)を圧力媒体として金箔を加圧し金の圧力スケールから試料内部の圧力分布を調べた.さらに約50, 70 GPaにおいて金箔をレーザー加熱によるアニールを行い,アニールによるリラクゼーションやそれぞれの圧力媒体の断熱性を調べた.その結果,静水圧性については,いずれのアルカリハライドも似た性質を示した.B1からB2構造への相転移に伴う細粒化により一度静水圧性は改善されるがその後加圧とともに試料内部の圧力分布が発生した.しかし,アニールを行うとその圧力不均質が改善された.熱伝導率についてはKBrやKClがNaClよりも低出力での加熱が可能であったことからKBrやKClのほうが小さい.第55回高圧討論会にて研究成果を発表した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
鉄-硫黄系の研究に関して,200 GPa以上での条件で融解関係や安定相を調べた.現在までに200 GPa以上での実験を放射光施設において行った.Fe+FeSを出発物質とした実験ではFe3Sの合成は確認されず,Fe+FeSのままであった.これはOzawa et al. (2013)にて報告されたFe3Sの分解結果と整合的である.また,Fe3Sの分解を直接確認するためにFe3Sを合成したのち200 GPa以上で実験を行った.現在までのところ,230 GPa,2500 K程度においてその場観察を行ったが,試料由来のX線回折パターンを確認できなかった.また,さらなる加熱を行った際にダイヤが割れた.現在までのところFe3Sの分解を確認するに至っていない.200 GPa以下の圧力においてアニールを行い,試料の結晶性を高めたのちX線粉末回折パターンの取得を行い,試料由来のパターンを取得したい. 圧力媒体の静水圧性を調査した研究では,KBr,KCl,NaClを用いた.圧力マーカーには0.005 mm程度の厚さの金箔を,圧力媒体・断熱材にアルカリハライドを用いた.実験の結果,NaClを圧媒体として用いた場合が最も静水圧性がよかった.また,レーザーを用いたアニール時,KBrやKClを用いた時が最も加熱しやすく,NaClの時は加熱するためにより大きなワット数を投入する必要があった.このことから断熱性はKBr,KClが優れていることが分かった.さらに加圧軸とX線の入射角をずらして試料の歪を測定することを試みた.今後解析を行っていき弾性定数を求めたい. 以上のように,研究を進めてきた.鉄-硫黄系の相平衡実験では,満足のいく結果ではないが,今後アルカリハライドの静水圧性や断熱性の研究結果と合わせ,より高温高圧の実験を成功させることが可能と考えられるのでおおむね順調であると判断した.
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今後の研究の推進方策 |
初年度の研究成果によって判明したアルカリハライドの断熱性や静水圧性を考慮し,KBrを断熱材と圧力媒体として用いて高温高圧実験を行っていく.また,次年度での研究計画にあるように,高圧実験に用いているダイヤモンドのデザインの検討を行っていく.これによって200万気圧を超える条件での実験において割れにくいダイヤモンドデザインを決定する. 前述したようなデザインを改良したダイヤモンドとKBrを断熱材と圧力媒体として用いて放射光施設SPring-8にて高温高圧下でのその場観察実験を行う.鉄-硫黄系において200万気圧以上300万気圧までの条件で実験を行う.鉄-硫黄系について内核条件まで実験を行った後,鉄,硫化鉄などの端成分の実験を行う.これは250万気圧以上では鉄と硫化鉄が共存する相関係となる可能性があるためである.これらに加えてFe3SやFeS,FeOなどを放射光メスバウア分光法により磁性・スピン状態などを明らかにし,地球核物質の物理的特徴を明らかにしていく.
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