研究実績の概要 |
本研究は,天然・合成緑簾石族鉱物における希土類元素や遷移金属の陽イオンおよび陰イオンの挙動が結晶構造に与える影響を系統的かつ体系的に解明し,配位多面体ごとのキャラクタリゼーションを行うことで造岩鉱物一般に広く適用できるイオン置換と結晶構造変化,水素結合との関係に関する一般則を見出すことを目的する.本研究はその目的の達成のため以下の4つの課題を設定した:(1) 陽イオンの結晶内分配の支配要因:バナジウムの挙動の解明と3価の遷移金属イオン間の分配係数の決定, (2) 6配位席における遷移金属イオンの挙動:Ca-REE3+置換を伴う緑簾石族鉱物の系統的な検討, (3) 陰イオン(OH, OD基)が結晶構造に与える影響:重水素と水素, (4) 構造的類縁鉱物群における陽イオンの挙動と水素結合システム:配位多面体の特性の理解.これまで課題(1), (2)については下記のように当初目標以上の研究成果が得られている. (1) 含Vクリノゾイサイトの合成を世界で初めて成功させ, X線構造解析を用いてこれまで知られていなかったバナジウムの挙動を決定し,結晶構造変化への影響を明らかにした。さらにこれまでFeを含むクリノゾイサイトや緑簾石のみで指摘されていた不混和領域の存在を確認した(Nagashima et al. in preparation). (2) レアアースを含む緑簾石族鉱物である褐簾石に属する3種の新鉱物「ランタンバナジウム褐簾石」「ランタンフェリアンドロス石」「ランタンフェリ赤坂石」の研究を通じて,複合置換(Ca2++Me3+=REE3++Me2+)が結晶構造に与える影響を検討し,さらにMn2+の挙動を既知の研究とあわせて系統的に理解した.この成果は,国際誌に2編の論文として公表済みである.
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