研究実績の概要 |
本研究は、天然・合成緑簾石族鉱物における希土類元素や遷移金属の陽イオンおよび陰イオンの挙動が結晶構造に与える影響を系統的かつ体系的に解明し、配位多面体ごとのキャラクタリゼーションを行うことで造岩鉱物一般に広く適用できるイオン置換と結晶構造変化、水素結合との関係に関する一般則を見出すことを目的としてきた。そこで平成27年度は緑簾石類縁鉱物を用いた陽イオン置換と陰イオン置換の関係の解明を主に進めた。 申請者は、緑簾石類縁鉱物であるパンペリー石やサーサス石に関して、同種・同構造の鉱物であっても陽イオンの酸化数変化が異なる水素結合システムの構築を促すことを指摘するなど、陽イオン置換と陰イオン置換の密接な関係について報告してきた。そこで平成27年度は(1) パンペリー石のFe3+卓越種であるジュルゴルド石を用いて本現象についての再検討、(2) 本現象の普遍性を検討するため準輝石族鉱物を用いた検討の2つの課題に取り組むことで、その普遍性の検証を試みた。 (1)の成果:4つの酸素がOH基を形成するパンペリー石において、本研究では7か所の水素位置が決定された。これは本鉱物が陽イオンの酸化数変化に伴って複数の水素結合システムを持つことを示唆している。加えて、2種の6配位席(X, Y)の変化について、これまで平均イオン半径と相関を持たないとされてきた<X-O>で相関が成り立つという新知見を得た(論文準備中)。 (2)の成果:南部石-ナトリウム南部石など予察的な結晶化学的検討で、Li-Na置換がOH基のドナーのスイッチ現象を引き起こすことを見出した。本現象の普遍性と発生メカニズムの明らかにするため、他系列の含水準輝石の系統的な変化を検討し、予察的な研究を支持する結果を得た(論文準備中)。 これらの結果から、陽イオン置換と水素結合システムの変化は普遍的な現象であり、造岩鉱物一般に起こり得ると結論付けた。
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