研究実績の概要 |
水素負イオン源のビーム引出効率を上げるとことでイオン源性能の向上が期待される。水素負イオンの生成からビームとして引き出されるまでのダイナミクスを理解は、より高いビーム引出効率を持つイオン源設計に役立つ。本研究の目的は、このダイナミクス解明のための基礎物理パラメータとなる水素負イオン温度の計測法の開発である。 水素負イオン温度計測法は既存のCavity Ringdown法(CRD)による水素負イオン密度計測システムをベースとして開発した。CRD法はレーザー吸収分光法の一種である。通常、CRD法による水素負イオン密度計測では、計測レーザー内の密度変化を無視できる程度のレーザーを導入する。一方、新たに開発した水素負イオン温度計測では大強度のレーザーを導入し、その応答を観測することで、水素負イオン温度を評価する。まず、単純な熱拡散モデルで数値計算を行い、既存のYAGレーザーを用いて想定される水素負イオン温度計測が可能であることを確認した[H. Nakano, Plasma Conference 2014, 20PB-120]。水素負イオン温度計測装置開発は核融合科学研究所の開発用大型水素負イオン源(フィラメントアーク放電)を用いて行った。計測位置はプラズマ電極(ビーム引出境界の電極)から13mmとした。大強度レーザーを導入することで、水素負イオン温度に起因する応答を検出した。数値計算モデルと比較することで、水素負イオン温度は約0.1eVであった。この値は先行研究において小型フィラメントアーク放電型水素負イオン源で別の手法で得られたものと一致した。またレーザー強度に応じた水素負イオン温度0.1eVに相当する検出信号の変化を検出した。十分にレーザー強度を下げることで水素負イオン密度が計測できることを確認した。以上より、同じシステムで水素負イオン密度と水素負イオン温度を計測する手法の開発に成功した[中野治久 他, 日本物理学会第70回年次大会, 22pBH8]。
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