励起状態に発現する電子揺らぎは、基底状態とは異なり、多様な時間スケールを持つ動力学ならびに、非局所的でダイナミックなエネルギー移動を引き起こす可能性がある。本研究では、頻繁な非断熱遷移により多彩な電子揺らぎを伴う、高擬縮重励起状態に進行する化学反応の新規開拓を目指している。ホウ素の価電子欠損性に由来するホウ素クラスターの高擬縮重励起状態からは、化学結合や不対電子の空間的フラストレーションを期待できる。これと、反応場機能発現との相関を調べたいと考えた。低い周期表位置の元素をベースとした、複雑な励起状態群の中で進行する新規な化学反応の創出も期待できる。励起化学反応過程の研究で今後考察が必要になってくる要素は、複雑な励起化学過程における非断熱”電子動力学”であると考える。 前年度までに、量子化学計算に非断熱動力学理論を実装し、多数の励起状態を露に考慮した非断熱電子動力学エーレンフェスト動力学計算を通じて、クラスターと水素分子との反応性、アルコール分子との間の電荷移動特性について、外場に駆動される電子揺動との顕著な相関を見出した。本年度は、一旦基礎に立ち返り、高度に擬縮退した幅広い励起状態の群が状況に応じて持つ個性についての知見を得るべく、ホウ素クラスター単体の励起状態群の特性分類を行った。特に、結合電子にも分子内を超高速に移動する化学エネルギーキャリアにもなる、不対電子の生成消滅と揺らぎが生み出す電子場の自由度に注目した。不対電子の鋭敏性解析(結合次数密度、外場応答)と非断熱遷移による電子状態拡散の情報を用いる事により、高低に応じた高擬縮重励起状態の分別、及び、励起状態群の動的な意味での電子特性分類が可能になる事がわかった。これらは、化学反応性の上昇に有利な外場環境(レーザー場、原子付加)を理論提示する上で有用と考えられる。これらの内容を、学会及び論文誌において発表した。
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