研究概要 |
金属イオンとキレートの親和性は,HSAB 則により説明される.だがHSAB則によるレアメタルキレート回収材の設計には,しばしば困難が伴う.例えばPd2+回収用のキレートでは,ソフトな硫黄ドナーとハードな酸素ドナーを併せもつキレート「SuperLig」が最も良いPd2+回収効率を与え,HSAB 則に合わない.本研究の目的は,我々の生活を支えるレアメタルのキレート回収効率向上を狙った,金属イオンとキレート分子の動的相互作用の理論的解明である. クラウンエーテルとアルカリ金属(Na+,K+,Rb+,Cs+)の親和性は,エーテル環のサイズに依存するが,単純にエーテル内径とイオン半径のマッチングだけで決まっている訳でもないことも知られている.これは,クラウンエーテルが最も金属と強く相互作用できるよう柔軟に構造を変化させることができるためである(induced fit).従って,SuperLigによる遷移金属の親和性考察の際も,構造変化の効果は無視することができない.研究初年度はこれらを鑑み,上記SuperLigによるPd2+イオンの捕捉特性をCPMD法でシミュレーションし,クラウンエーテルおよびチアクラウンエーテルと比較検討した.検討の結果,SuperLigのPd2+結合自由エネルギーはクラウンエーテルおよびチアクラウンテーテルに比べ大きいことが分かった。これは,遷移金属を捕捉するキレート剤の設計に,揺らぎの効果を無視できないことを示している。
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