本課題の当初の研究期間(2013/4~2017/3)が、申請者の諸事情により課題を辞退(2014/6)したため、それまでの期間の実績を報告する。本研究課題では、量子古典混合系近似に基づく分子動力学シミュレーションを用いることにより、方法論の拡張を図りつつ、様々な環境下に置かれた溶質分子における溶液内プロトン移動の反応機構、特に量子効果と溶媒効果を分子レベルで明らかにすることを目的としている。ただし、課題の廃止によりこの目的の内の初期の段階のみを遂行する形となった。相互作用の大きい極性溶媒(水)および相互作用の小さい無極性溶媒(ネオン)の中でのシミュレーションの軌跡データを用いて統計的な解析をすることにより、反応機構の議論に有益な定量的なデータを提供した。このデータに基づいて、まずはすでに確立されている反応理論と比較することにより、シミュレーションの数値的実証データが反応理論と整合することを示し、シミュレーションモデルの有効性を確認した。その上で、典型的な反応について時間発展を詳細に記述することにより、反応の量子力学的描像を鮮明に示した。さらに、反応時におけるポテンシャル曲線の変化と揺らぎのデータから、相互作用の大きな溶媒、小さな溶媒および真空中での反応機構の違いを(1)トンネル移動反応と熱活性反応、(2)古典力学モデルと量子力学モデル、の面からそれぞれ明らかにした。最後にここまでの段階の成果を論文にまとめて出版した。
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