本研究は,遷移金属触媒であるCp*Ir (Cp* = η5C5Me5)触媒を用いた水素移動反応にQM/MC/FEP法を適用し,新規な溶媒効果評価法を開発することを目的としている。平成26年度は,課題①:遷移金属錯体が計算できるように,現在の計算プログラム(PowerMC)に計算ソルバとしてMOPAC2009を組み込む。計算コストの大きなQM/MC/FEP法を遷移金属触媒などの大きな系に適用するために,並列化効率の向上を図り,計算時間を短縮する,課題②:Cp*Ir触媒を用いた1-フェニルエタノールの水素移動反応について,数種類の溶媒を用いたときの反応速度定数を実験的に決定し,活性化自由エネルギーを見積もる,ことをそれぞれ行った。 課題①について,PowerMCへのプログラム導入は終了し,一部のエラーおよびバグの修正作業が終了している。テスト計算を行っているが,有機金属錯体の分子が大きすぎるため,現在のサイズの液滴クラスタでは溶媒分子で有機金属錯体を覆うことができなかった。現在,液滴クラスタを楕円形にする作業を行っている。 課題②について,いくつかの溶媒で行ったところ,アセトニトリルでは反応が進行しないことがわかった。70℃におけるp-キシレン溶媒中での本反応の速度定数は,k2=9.1×10-7と測定された。しかしながら,異なる温度で反応速度定数の測定を行ったところ,再現性が得られなかった。このことから,Cp*Ir錯体が基質との反応により構造変化し,それが活性種として作用すると考えられる。そこで,(i) Cp*Ir錯体を溶液(溶媒と基質を混ぜたもの)に溶かしながら反応,(ii) Cp*Ir錯体を溶液に完全に溶かして反応,の二つについて実験を行った。結果として,Cp*Ir錯体はHClが発生した後活性種となること,HClが本反応性に大きな影響を与えることが新たにわかった。
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