研究課題
生体膜などの親水性界面における束縛水の電子伝達機能を明らかにするため、非イオン性二分子膜をモデル系とした基礎的研究を行った。非イオン性界面活性剤とコレステロールを水に分散させることにより、二分子膜(Niosome)懸濁液を得た。ここに疎水性亜鉛ポルフィリンと両親媒性ビオロゲンを添加し、ナノ秒過渡吸収を用いて光誘起電子移動を観測した。三重項状態から生じた電荷分離状態はマイクロ秒オーダーの長寿命を示し、膜外への散逸もほとんど見られなかった。さらに、250 mT程度の磁場印加により100%以上の過渡ラジカル収量の増大が観測され、本系において界面に強く束縛された電荷分離状態の形成が示された。電荷分離状態の寿命および磁場効果の支配因子の実験的解明のため、コレステロール濃度依存性、ビオロゲンの鎖長依存性、ポルフィリンの中心金属依存性を検討した。さらに、再結合速度の違う2サイト間の行き来を仮定した理論計算を行い、速度定数の決定を行った。ここから以下の事が明らかとなった。(1)電子移動に対する、疎水性アルキル領域の寄与は限定的である。(2)巨大磁場効果はマイクロ秒オーダーの遅い分子運動に起因する。(3)磁場効果の最大値は、主に金属ポルフィリンのスピン起動相互作用に由来する、非磁場依存性緩和によって決まっている。(4)電荷分離および膜外への散逸はビオロゲンの疎水性に強く依存する。最終年度は精密な温度制御を行い、電荷分離状態ダイナミクスに関する定量的検討を行った。ここから、サイト間の移動速度は温度にあまり依存しないが、近接サイトにおける再結合速度は、温度低下に伴い増大することが分かった。これは温度低下に伴い膜界面束縛水ネットワークが形成され、電子伝達が促進されたものと考えられる。さらに、共同研究者によりナノ秒磁場スイッチングを用いた実験が行われ、再結合の遅いサイトの存在が実証された。
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