研究課題/領域番号 |
25810011
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
小林 正人 北海道大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (40514469)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 理論化学 / 量子化学 / 静的電子相関 / Hartree-Fock-Bogoliubov法 / 分割統治法 / 大規模系計算 / ビラジカル / 有限温度MP2 |
研究実績の概要 |
本研究では、大規模系計算理論である分割統治(DC)法と電子対波動関数に基づく強相関系計算法のHartree-Fock-Bogoliubov (HFB)法を用いることにより、ブラックボックス、すなわち手法の名前だけで計算が可能な大規模系および強相関電子系の計算手法の開発を目的としている。 まず、昨年度開発したHFB法に対するエネルギー勾配法を用いて、強い電子相関の影響が大きいビラジカル性が高い分子(ベンザイン、ナフタセン、キノジメタン)の構造計算を行い、その精度を検証した。いずれの系も、従来の電子対波動関数に基づく方法で扱うには大きな系であるが、HFB法では少ない計算コストでかつスムーズに収束することが示された。また、HFB法には強い電子相関の寄与の大きさを決めるパラメータζが存在するが、これを適切に設定することにより、他の強相関系計算法であるCASSCF法や射影UHF法と同等の結果を与えることもわかった。 また、強い電子相関と関連が深い、電子状態計算における有限温度の効果についても検討を行い、特に動的電子相関計算法である2次のMoller-Plesset摂動(MP2)理論で進展があった。有限温度MP2エネルギー表現には従来から知られている式の他に、最近平田らによって提案されたrenormalizedエネルギー表現が存在する。この2つのエネルギー表現と、研究代表者が以前DC法を用いてMP2エネルギーを求めるために研究を行っていた密度行列Laplace-MP2法のエネルギー表現の間に一対一の対応関係があることを見出した。現在、この表現を用いたDC-MP2法の再定式化が進行しており、予備検討では精度の改善が見込まれている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
分割統治(DC)法に関しては、DC法による誤差を予測する手法の開発は完了しているが、アダプティブにバッファ領域を決定するプログラムの開発には至っていない。これは最終年度に提案できる見込みである。 電子対波動関数理論に関しては、当初最終年度に考えることとしていたDC法との融合について、フェルミ準位を媒介とした定式化がすでに完成しつつある。一方で、基礎となる電子対波動関数理論として採用する方法が当初予定から変更されたことに伴い、精度を向上する方法として元々適用を考えていた摂動理論による改善は難しいと判断している。現在、摂動理論とは異なる精度改善法を検討している。 さらに本年度は、当初予定にはなかったものの、強相関系で大きく寄与する有限温度MP2法に関する研究を展開した。これらを総合的に見て、研究はおおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
HFB法は強い電子相関を取り込むことができるが、精度を上げるために不可欠な動的電子相関が取り込まれない。計画では摂動的に精度を改善する方法を考えていたが、現在ではこれはHFB法には向かないと判断しており、かわりに密度汎関数理論(DFT)と組み合わせる方法を検討している。最終年度には、当初計画通り現在試行しているDC法とHFB法の融合理論を完成させ、大規模なπ共役電子系の電子状態と構造計算に利用する予定である。 また、今年度新たに展開した有限温度MP2法とDC法の結合に関しても、引き続き検討を続ける。
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次年度使用額が生じた理由 |
十分な性能のワークステーションを購入したが、当初見込額よりもこれが安価であったため、未使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
当初計画に加え、強相関電子理論と関連の深い有限温度MP2法の研究が進展している。これに関する論文・学会発表を当初計画に対して追加で行うために、残額を充当する予定である。
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