本研究では、密度汎関数(DFT)法に基づいた大規模第一原理計算により、生体分子のような巨大系におけるスピン軌道相互作用を解析するための手法の開発を目的としている。スピン軌道相互作用を含む計算は通常の計算よりも計算コストが非常に高いため、本研究では大規模計算に特化したDFT計算プログラムCONQUESTに基づき、大幅な計算コスト削減のための手法開発に取り組んだ。 今年度は、昨年度から開発を行っているマルチサイト法のスピン非制限計算への応用を行った。マルチサイト法では局所的な分子軌道様に基底関数を作成することで、基底関数の数を最小まで減らすことが可能である。数種類の構造における鉄の計算から、磁性体においても最小基底サイズで構造や磁気モーメントを定量的に計算可能であることが示された。これにより、マルチサイト法をスピン非制限計算に基づいたスピン軌道相互作用計算にも拡張可能となった。 また、マルチサイト法で作られる基底関数の数値的な最適化に取り組んだ。最適化を行うことにより変分的な計算が保証され、小さな局所分子軌道からマルチサイト基底関数を作る場合でも安定した構造最適化計算や分子動力学シミュレーションが可能となった。数千原子を含む水溶液中DNAに本手法を適用し、HOMO-LUMOギャップや状態密度図、分子軌道の情報を従来の手法よりはるかに短時間で計算することに成功した。 以上により、生体分子などにおける大規模計算の計算コストの大幅な削減に成功し、また、スピン非制限計算への拡張を可能とすることで、大規模生体分子のスピン軌道相互作用計算に向けた基盤が構築された。
|