プロペラの形をした分子には、らせん構造と同様にPもしくはMで表記可能な右巻き・左巻きの鏡像配座が存在し、そのキロプティカル特性は一方の鏡像配座を単離もしくは優先してはじめて発現する。このプロペラキラリティの創出と制御の観点から、特に鏡像配座間を可逆に相互変換する動的分子プロペラに焦点をあててきた。ベンゼン環を中心として六つの芳香環を周囲に配し、それらを三重結合で連結したヘキサキス(フェニルエチニル)ベンゼンを足場とし、キラリティ伝達を利用した独自の方法論でプロペラキラリティの制御とキロプティカル特性の観測を初めて達成した。一例として、隣り合う二つの羽根をテレフタルアミドで連結し、三回対称性分子を設計した。そこでは、分子内または分子間における単独でのキラリティ伝達は起こらず、これらが協同してはじめて動的ならせん性が制御される現象を見出した。別の例として、隣り合う二つの羽根を二点会合型ゲスト分子で超分子的に連結した場合には、錯形成時にのみ分子内キラリティ伝達が起こり、分子は錯体中で一方のプロペラキラリティを優先したと考えられる現象を見出した。これらに加えて、ベンゼン環を中心として三つの芳香環を周囲に配し、それらを三重結合で連結したトリス(フェニルエチニル)ベンゼンを上下に積層し、三つのテレフタルアミドで架橋した分子を設計し、分子内キラリティ伝達により予め一方のらせん性が優先し、架橋部でのゲスト分子との錯形成に際し、ホストの構造変化を通じてそのらせん優先性が反転する現象を見出した。 以上の検討の過程で、環状分子の折りたたみを利用した新たな動的らせん性の設計と制御も行い、キラリティ伝達が温度に応答してON-OFFできる系を報告した。
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