研究課題/領域番号 |
25810025
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研究機関 | 学習院大学 |
研究代表者 |
森 啓二 学習院大学, 理学部, 助教 (10515076)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 軸不斉ビアリール / キラルリン酸触媒 / 動的速度論的光学分割 |
研究実績の概要 |
現在市場に出ている医薬・農薬には不斉点を持つものが数多く存在する。その有用性から近年、優れた不斉合成反応の開発は重要な課題の一つとなっている。これまでに様々な反応が開発されてきたが、そのほとんどが中心不斉の構築に焦点をあてており、アトロプ異性体(軸不斉、面不斉等)の不斉合成法の開発はほとんど顧みられてこなかった。これは、立体化学的不安定さを潜在的に持つこれらの不斉情報の制御が困難であることに起因する。 本課題ではアトロプ異性体の不斉構築法の開発、特に動的な立体制御法の開拓を目指し、研究に取り組んできた。昨年度までの様々な基質検討の結果、当初計画したキラルリン酸触媒を用いた動的速度論的光学分割型不斉臭素化による手法の開発は困難であるとの結論に至った。そこで異なるアプローチとしてビアリールそのものではなく、その類縁体である“ジヒドロフェナントレン誘導体”の不安定な立体化学的不斉情報を利用した不斉開環に基づく手法に着目し、研究に取り組んだ。その結果、キラルリン酸触媒により効果的に加速される還元的アミノ化反応を利用することで、望みの動的立体制御による不斉開環反応が効率よく進行し、多置換光学活性ビアリールを高いエナンチオ選択性で得ることに成功した。さらに興味深いことに、リン酸触媒の多少の構造変更を必要とするものの、異なるアミンを用いても高い選択性が達成できることを見出した。従来のキラルリン酸触媒を用いた反応系では、ある特定の基質において高い選択性を達成できることが多いため、この結果によりそれぞれの反応により得られる生成物の絶対立体配置の変化が強く示唆された。それを確認すべく、各反応で得られた生成物を共通の中間体へと誘導した結果、確かにそれぞれで逆の異性体を選択的に与えていることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画したものとは多少異なるが、目的の動的立体制御型不斉合成法の開発に成功しており、十分な進展があると考えている。本手法はこれまでに類例のないキラルリン酸による(1)動的速度論的光学分割、(2)軸不斉ビアリール合成、(3)単純な条件変更による両鏡像異性体の作り分け、という三つの特徴を併せ持つ興味深い手法である。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに見出した、単純なアミンの変更による鏡像異性体の変化機構の解明を主目的に研究を進める。具体的には、理論化学(DFT計算)および実験化学(基質検討)の二つのアプローチにより、相補的な関与が予想される相互作用の一つ一つを分解解析し、主要因たる相互作用を解明する。さらに、そこで得た知見をもとに基質や触媒を再設計し、更なる高立体選択的反応の達成を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究を進めた結果、予期せぬ興味深い知見を得ることができ、研究計画の見直しが必要になったため
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次年度使用額の使用計画 |
研究遂行にあたっての新たな方向性が見えてきたので、今後はそこに焦点をあて研究を遂行する
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