研究実績の概要 |
本研究では、孤立電子対と空のp軌道を併せ持つ高周期14族元素2価化学種の構造ならびに反応性に着目し、7員環キレート歪みの導入により反応性がどのように変化するのかを明らかにすることを目的としている。7員環キレートを導入するために、2,2’-ジアミノビフェニル骨格を選択し、6,6’位にはビフェニルの回転を抑制するためにメチル基を、窒素上には高周期14族元素2価化学種の速度論的安定化のためにトリメチルシリル基を置換したものを用いた。その結果、スズの2価化学種の単離に成功し、X線結晶構造解析により構造を決定した。一方、ケイ素の化合物については前駆体である4価化学種の単離に成功し、還元反応により2価化学種の合成を試みたが、複雑な混合物となり単離には至らなかった。 単離に成功したスズ2価化学種を2当量のフェニルビニルケトンと反応させると、 (4+2+1)付加環化反応が進行し、7員環化合物が生成した。一方、アルデヒド、イソシアニドやアジドと反応させると、それらの配位のみが観測された。これはスズ上の孤立電子対のs性の高さに起因すると考えられる。そこで、スズ2価化学種にベンズアルデヒドを配位させ、活性ジエンを加えると、スズ2価化学種によって活性化されたアルデヒドとジエンとの間でヘテロDiels-Alder反応が進行し、環化体が得られた。この反応は触媒量のスズ2価化学種存在下でも進行した。 ゲルマニウム2価化学種はスズと比べて孤立電子対のs性が低下しているため、イソシアニドやアジドとの反応が大きく異なっていた。t-ブチルイソシアニドでは、t-ブチル基のゲルマニウム上への転位反応が進行し、またアダマンタンアジドを用いると環化反応が進行し、テトラアザゲルモールを生じた。これらの結果は、高周期14族元素2価化学種の不飽和結合に対する反応性を系統的に理解する上で重要な知見である。
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