研究課題/領域番号 |
25810032
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
高石 慎也 東北大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (10396418)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 金属錯体化学 / 一次元錯体 / 相転移 / 混合原子価 |
研究概要 |
申請者は、本研究課題において、擬一次元ハロゲン架橋金属錯体という一次元金属錯体において、動的な電子状態を作り出すことにより電荷のダイナミクスを創出することを目的としている。 その中で、申請者は、今回新たにPd(II)-Pd(IV)の混合原子価状態とPd(III)の平均原子価状態との間で相転移する錯体[Pd(cptn)2Br]Br2 (cptn=1R,2R-diaminocyclopentane)の開発に成功した。この錯体は室温では混合原子価状態であったが、100K付近で平均原子価状態に相転移を起こすことがIRスペクトル、光学伝導度スペクトル、電気伝導度などの測定結果より明らかとなった。この錯体は、従来の混合原子価-平均原子価相転移を示す錯体とは異なり、面内配位子の配位子場の制御というこれまでとは全く異なる機構でによって実現された。この錯体は長鎖アルキル基を含まない初めてのPd(III)錯体であり、容易に劈開が可能であるため、従来は不可能であった相転移に伴う電荷の動的挙動をSTMなどの測定によって直接明らかにできる可能性を秘めている。(これについては平成26年度に行う予定である。) また、従来のスルホコハク酸ジエステルから、炭素を一つ減らしたスルホマロン酸ジエステルを新たに合成し、これをカウンターイオンとして用いた新規臭素架橋Pd錯体[Pd(en)Br](Cn-Mal-Cn) (n=5,7)の合成に成功した。特にn=7の錯体では、室温におけるPd-Pd距離が5.20Åであり、従来のスルホコハク酸ジエステルの系に比べて短いことが分かった。また、この錯体は室温(300K)で平均原子価状態をとっていることが各種測定から明らかとなった。これは、室温で平均原子価状態のX線結晶構造解析に成功した初めての例である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
まず、平成25年度の研究において、長鎖アルキル基を含まない金属錯体で、初めて混合原子価-平均原子価状態相転移を示す臭素架橋Pd錯体の合成に成功したことは、大きなブレークスルーだと考えている。なぜなら、この錯体は劈開によって原子レベルで清浄な面を切り出すことが可能であり、STMによる局所電子構造を観測することが可能である。これによって、本研究課題の目的である電荷のダイナミクスを実空間で観測することが可能になる。これについては平成26年度の研究で行う予定である。 また、相転移温度の制御という観点では、新たにカウンターイオンを設計・合成することにより、相転移温度を室温付近に持ってくることに成功した。これは、相転移を駆動力とした光スイッチングを実現する上で極めて有意義な結果である。 電界効果トランジスタ(FET)を用いたキャリアドーピングとそれによる電荷秩序融解に関しては、測定系の構築に予想以上に時間がかかってしまったため、平成25年度中に成果を上げることができなかったが、問題点は現時点でほぼクリアされており、平成26年度には同金属錯体をFETデバイスに組み込んで、キャリアドーピングを行うことができると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度の研究で行う予定の研究は、以下のとおりである。 ①低温STMの測定を行うことで、混合原子価状態から平均原子価状態に相転移する際の局所電子構造を直接的に明らかにする。これについては、100K以下でのSTMの測定が可能な設備が必要であるため、これから共同研究先を見つける予定である。 ②劈開が可能な金属錯体で、かつ相転移温度が室温付近に来る新規臭素架橋Pd錯体の開発を行う。これにより、より簡便なSTM装置(大気下・室温)での測定が可能になると考えられる。 ③これまでに得られた各種擬一次元ハロゲン架橋金属錯体を用いてFETデバイスを網羅的に作製し、電界によるキャリアドーピングを誘起し、電荷のダイナミクスを創出し、それに起因した新規物性を探索する。 ④これまでに実現されていないPt(III)の平均原子価状態を実現する。そのために、カウンターイオンに用いる長鎖アルキル基の構造を変化させた、スルホン酸の開発をおこなう。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度使用額は、今年度の研究を効率的に推進したことに伴い発生した未使用額である。 次年度使用額は、今年度の研究を効率的に推進したことに伴い発生した未使用額であり、平成26年度申請額とあわせ、平成26年度の研究遂行に使用する予定である。
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