研究実績の概要 |
申請者は、本研究課題において、擬一次元ハロゲン架橋金属錯体という一次元金属錯体において、動的な電子状態を作り出すことにより電荷のダイナミクスを創出することを目的としている。その中で、申請者はPd(II)-Pd(IV)の混合原子価状態とPd(III)の平均原子価状態との間で相転移する錯体[Pd(cptn)2Br]Br2(cptn=1R,2R-diaminocyclopentane)の開発に成功した。この錯体は幅広い温度領域で両電子状態が相分離することで共存していることが明らかとなり、そのドメインは結晶の110方向に成長することが光学顕微鏡観察やRamanスペクトルなどの測定によって明らかとなった。また、この錯体の電子状態の変化を走査トンネル顕微鏡(STM)の測定により可視化することに成功した。このように相転移に伴う電子状態の変化を実空間で直接観測した例は申請者が知る限り初めての例である。また、室温で平均原子価状態をとる新たなPd錯体[Pd(dabdor)Br]Br2(dabdor=1,4-dihydroxy-2R,3R-diaminobutane)の合成に成功し、単結晶構造解析に成功した。また、この電子状態をRamanスペクトルやSTMなどの測定により明らかにした。
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