研究課題/領域番号 |
25810038
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 富山大学 |
研究代表者 |
岩村 宗高 富山大学, 大学院理工学 研究部(理学), 講師 (60372942)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 希土類錯体 / 円偏光発光 / キラルセンサー / 顕微分光 / 赤外発光 / アミノ酸 / 円二色性 / 発光プローブ |
研究概要 |
生体や超分子系などの複雑系を対象とした新しいキラル分光学の確立を目指し、新規キラルイメージングシステムを用いた複雑系に対する分光実験を行っている。 我々は、系に散在するキラル因子より誘起されたプローブ分子からの円偏光発光を、共焦点レーザー顕微分光システムにて計測する新規キラルイメージングシステムを提案している。発光プローブには、キラルな環境におかれたときのみ円偏光発光を示す希土類錯体を用いている。 3価ユウロピウムを中心金属としたポリピリジン系配位子とその誘導体を用いて、水溶液中にアミノ酸を共存させたときに誘起される円偏光発光(誘起円偏光発光)を計測した。その結果、配位子がビピリジンのときに比べてフェナントロリンを用いたときに、特定のアミノ酸に対してとくに強い円偏光発光が観測されることを見出した。アミノ酸依存性、pH依存性、配位子依存性、濃度依存性などを詳細に検討した結果、プローブ分子にアミノ酸が水素結合を介して2分子以上会合することにより強い円偏光発光を示すことが明らかとなった。このように、複数のキラル分子によるアロステリックな効果が円偏光の誘起に重要な役割を果たしていることが分かった。 発光プローブ分子を拡充するため、近赤外領域に感度を持つ円偏光発光分光システムを作成した。ユウロピウムの系で良好なキラルセンシング能を示したフェナントロリン系配位子を用いて、赤外発光を示す3価イッテルビウムの誘起円偏光発光を検討した。1000nm付近の近赤外領域でも円偏光発光の計測に成功した。また、同じ配位子でも中心金属が異なるとキラルセンシングの選択性が異なることを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
キラルセンシングメカニズムについて、詳細な内容を明らかにし、これを論文にまとめることが出来た。このことにより、誘起円偏光発光を用いた実用的なキラルセンシングをより拡張するための指針を見出された。 これまで観測例のあまり多くない近赤外領域の円偏光発光が観測可能な分光システムを完成させた。これにより新しい系での誘起円偏光発光の成果が期待できる。
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今後の研究の推進方策 |
誘起円偏光発光は、キラル分子との相互作用によりプローブ分子がキラルな形状に構造変化することにより発現する。この構造と円偏光発光スペクトルの関係が詳細に分かれば、誘起円偏光発光から分子環境とその相互作用に関するより詳細な情報を得ることができる。現在アルギニンを分散させたPVAフィルム中でキラルなユウロピウムプローブ分子の結晶が析出することを見出している。これを参考に、キラルな構造に歪んだプローブ分子の結晶を作成し、構造に関する正確な情報を得る。 その一方で、新たに作成した近赤外円偏光発光分光システムを用いて、新しい発光プローブによる誘起円偏光発光を行う。観測領域を近赤外に拡張することで、可視領域の励起光を使用することが出来る。このことによりより多くの配位子、金属イオンを発光プローブ分子として導入できる上、可視光励起や赤外発光は生体と相性がよいので、生体を対象とした顕微分光に応用展開することが期待できる。
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次年度の研究費の使用計画 |
新規の配位子の合成が予定どおり進まなかったため、次年度に延長した。その間、アミノ酸濃度依存性などの物理化学的測定実験を進めたがこの実験には既存の試薬と装置で対応できた。 25年度に予定した合成実験を26年度に行う。
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