研究課題/領域番号 |
25810048
|
研究種目 |
若手研究(B)
|
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
廣瀬 崇至 京都大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (30626867)
|
研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
|
キーワード | 協同的組織化 / 光応答性 / 走査型トンネル顕微鏡 / 固液界面 / ジアリールエテン |
研究概要 |
本年度は、走査トンネル顕微鏡を用いてフォトクロミック分子であるジアリールエテンが形成する分子配列を観測し、固液界面における表面被覆率の濃度依存性から、配列形成プロセスを協同的組織化モデルに基づいて評価する手法の確立を目的とした。 アミド基および長鎖アルキル鎖を分子両端に有する2-チエニル型のジアリールエテン誘導体の開環体は、オクタン酸/HOPG界面において1平方マイクロメートル以上の広いドメインを有する単分子配列を形成することが認められた。得られた分子配列に関して表面被覆率の濃度依存性を調査した所、200マイクロM以下では配列は観測されず、240マイクロM以上でほぼ100%の表面被覆率が得られ、濃度に対して非常に鋭敏な配列形成挙動を示すことが明らかとなった。この濃度依存性を本研究で確立した2次元基板上における協同的組織化モデルを用いてフィッティングを行うと、伸長平衡定数 Ke = 4600 M-1 協同性パラメーター sigma = 2.8 * 10-4 という高い協同性を有することが示唆された。本研究で確立した協同的組織化モデルを用いることで、2次元基板上における配列形成プロセスの協同性を定量的に評価することが可能となった。 また、紫外光照射後に生成するジアリールエテン閉環体は分子配列を形成せず、幅広い濃度域において光異性化反応に伴う可逆な分子配列の形成/崩壊を制御することに成功した。 これらの研究成果は、(i) 配列形成プロセスの初期段階から大きな単一ドメインを有する分子配列の形成、および、(ii) 濃度、温度、光などの外部刺激に敏感に応答する分子素子デバイスを構築する上で、有用な知見であると考えられる。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は当初の目的通り、2次元基板上における協同的組織化モデルを確立し、実際に実験的に得られた分子配列挙動を精度良く再現することができたことから、研究目的はおおむね順調に進展していると言える。 また、当初の想定以上に得られた知見としては、2-チエニル型のジアリールエテンがパラレル構造で分子配列を形成しており、導入したアミド基に由来して高い協同性を示すこと、開環体・閉環体の間で配列形成能が大きく異なっており、理想的な配列形成・消失の光制御が可能な系を構築したことなどが挙げられる。
|
今後の研究の推進方策 |
今後は、本年度確立したモデルを用いて、分子構造と配列の安定性・配列形成プロセスの協同性との関係を調査することをメインに研究を推進する予定である。 これまでに得られている予備的な知見として、チオフェン環の5位にフェニル基を導入したジアリールエテン誘導体では、アミド基を同様に有するにもかかわらず大きな協同性を示さないこと、アミド基をウレア基に置換した誘導体は低い臨界濃度で分子配列を形成する一方で協同性はアミド基を有する誘導体よりも小さくなることなどが得られており、これらの原因に関しても同様に調査を進める予定である。
|
次年度の研究費の使用計画 |
本年度購入予定であったSTM用の温度コントローラーおよび温度可変サンプルステージは、本研究とは異なるプロジェクトの目的で先に導入が行われたため、本予算で購入することなく当初の予定通りに研究を推進することができた。 以上の理由により、次年度使用額が生じることとなった。 生じた次年度使用額は、STM測定に必要な消耗品(HOPG基板およびPt/Ir探針)や有機合成用の試薬、分光測定消耗品(光学セル等)として翌年度の助成金と併せて有効に利用する予定である。
|