研究実績の概要 |
本年度は、前年度に得られた予備的な知見を基に新たな実験を計画し、固液界面における分子配列形成およびその光応答性に関して更なる研究を行った。 トリフェニルメタンカチオン誘導体である4,8,12-トリアザトリアンギュレン (TATA) カチオンの中心炭素に軸置換基を導入した誘導体は、紫外光照射に伴い反応量子収率0.3~0.7程度の高い効率で光解離反応が進行することが見出された。この軸置換TATA誘導体をAu(111)基板上に配列させた後、固液界面もしくは固気界面で光照射を行うことで、金属基板上においても溶液中と同様に光解離反応が進行することを走査型トンネル顕微鏡 (STM) を用いて分子レベルで観測することに成功した。 昨年度までの研究では、フォトクロミック分子として2-チエニル型のジアリールエテン (DAE) を用いて主に研究を行っていたが、本年度は3-チエニル型のDAEを用いて分子配列の光応答性に関して検討を行った。2-チエニル型DAEでは、閉環体からは分子配列の形成が確認されなかったことに対して、3-チエニル型DAEでは、開環体と閉環体がどちらも同程度の臨界濃度を有して縞状の分子配列を形成することが確認された。3-チエニル型DAEの開環体・閉環体はどちらも高い協同性を有する配列形成プロセスを示し、固液界面の濃度変化に対して急激に分子配列の形成および消失を示すことが見出された。配列形成における高い濃度依存性は、すなわち、配列形成の高い光応答性に繋がることが明らかとなり、高い協同性を持つ分子配列形成プロセスに由来して、非常に高感度な光応答性分子配列の構築とその定量的評価に成功した。
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