研究課題/領域番号 |
25810051
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
野口 誉夫 九州大学, 工学(系)研究科(研究院), 学術研究員 (00632431)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 分子情報変換 / 会合誘起発光 / 自己集合 / ATP / NADPH / ジカルボン酸 / 代謝疾患 / スクリーニング |
研究概要 |
自己集合を、分子から分子集合体を構築するための「ボトムアップツール」から、分子構造情報を分子集合体に変換する「変換ツール」と捉え直すことで、従来の1:1結合(分子認識)に基づく蛍光センシングとは一線を画す、分子認識による会合誘起発光を基盤とする新たな蛍光センシングシステムの構築に取り組んだ。 はじめに分子設計の提案からおこない、発蛍光部位に会合誘起発光特性を示すことが知られているテトラフェニルエテンを利用することで、会合誘起型蛍光センサ(TPE)を開発した。TPEセンサは、代謝関連補酵素類(NAD+, NADH, NADP+, NADPH)の中で、NADPHと選択的に集合体を形成し蛍光応答を示した。最大で約20倍の蛍光増大を示す、蛍光応答に閾値を持ったturn-on型のNADPH検出を実現し、会合誘起発光を利用する分子情報の精密変換を提示することができた。 また、蛍光センサの認識部位としてZn(II)-dipicorylamine錯体を導入したTPE-Znを合成し、ジカルボン酸の蛍光検出を検討していたところ、蛍光を発するが集合体の形成が認められないという想定外の結果を得た。各種分光法による解析の結果、ジカルボン酸検出のための新たな蛍光センシングシステムcyclization-induced emission (CIE)の提案に至った。本CIEシステムは、代謝疾患のマーカーとなる「ジカルボン酸群」の蛍光検出を実現するものであり、特定の標的ジカルボン酸の選択的検出を主目的としてきた従来の認識化学に基づく蛍光センシングとは、まったく異なる検出システムである。本手法は、代謝疾患のスクリーニングを容易にする、新たな蛍光センサ開発のための基盤になると期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
H25年度の研究目的は、①高塩濃度でも働くATPプローブTPE-Znの創製、②認識部位としてボロン酸を導入したTPE-Bの創製と糖構造認識、③発光部位として、会合誘起発光性色素オリゴフェニレンビニレン(OPV)を用いた蛍光センサの創製と蛍光応答の自在制御と設定している。 研究目的①については、実際にTPE-Znを合成し、高塩濃度条件下でもATPを蛍光検出できることを確認した。さらに、他の生体由来アニオンの蛍光検出を検討していたところ、代謝疾患のマーカーとなる「ジカルボン酸群」の蛍光検出が可能であることを見出した。これは、代謝疾患のスクリーニングを容易にする、新たな蛍光センサ開発への展開が期待されるもので、当初の研究目的②を「糖構造認識」から、「代謝疾患のスクリーニングを実現する蛍光センサ開発」と設定した。研究目的③に関しては、認識部位としてグアニジニウムを有するOPVセンサを合成し、塩強度をかけることでATP選択性が向上すること、また、蛍光応答閾値が高濃度シフトすることを見出した。さらに、OPVセンサのジカルボン酸に対する蛍光応答を調査したところ、ジカルボン酸構造のわずかな差異(炭素数1つ)が、蛍光応答曲線に明瞭に反映されることを見出した。現在、「分子認識による会合誘起発光を利用する分子情報の精密変換」というコンセプトが確立できる状況にあり、当初の目的は達成されていると考えている。 また、共同研究先の企業に合成したサンプルを送付し、細胞イメージング、製品化の評価をしていただける環境を整えた。担当者とのディスカッションを通じ、蛍光センサの新たな設計戦略へとフィードバックしている。
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今後の研究の推進方策 |
企業と連携し、これまでに合成してきた蛍光センサを細胞内に導入し、細胞内ATP濃度の定量化を試みる。蛍光センサの細胞内移行が進行しない場合、エンドサイト―シス過程による細胞内移行を誘発する「保護基」を蛍光センサに導入した、ケージド蛍光センサを開発し、細胞内での「脱保護」による蛍光センサのATP応答活性を確認する。 また、代謝疾患のマーカーとなる「ジカルボン酸群」を検出する蛍光センサの分子設計指針を確立する。従来の分子認識に基づく蛍光センサは、標的とした特定のジカルボン酸の選択的検出が主目的であった。これに対し、「ジカルボン酸群」の検出は、従来の認識化学とは逆方向のベクトルとなるため、分子設計指針の確立が必須となる。
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次年度の研究費の使用計画 |
本年度は、蛍光センサの新規合成と生体由来アニオンに対する蛍光応答測定がメインとなり、既存の試薬、装置で対応可能であった。その過程で、代謝疾患のマーカーとなる「ジカルボン酸群」の蛍光検出という、新たな研究テーマも生まれた。 次年度は、細胞イメージング等の応用測定がメインとなるため、計画調書に記載した物品の購入を予定している。
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