研究課題
前年度までに2-フェニルピリジル配位子を種々変化させたイリジウム錯体の発光挙動の置換基効果を調査した結果、水素結合ダイマー錯体は、モノマー錯体に比べ、発光量子収率が2倍程度に増加することが分かった。特にtpy (2-(p-tolyl)pyridine)を用いたダイマー錯体は、83%と極めて高い値を示した。今年度は、水素結合ダイマー錯体の発光メカニズム解明のために、電気化学的性質や、理論計算などから検討した。水素結合ダイマー錯体とモノマー錯体のサイクリックボルタンメトリー(CV)を測定した結果、モノマー錯体はイリジウム中心の一電子酸化波が可逆的に生じたが、ダイマー錯体の場合、モノマー錯体よりも低電位側に不可逆な一電子酸化波が生じ、さらにモノマー錯体とほぼ同じ位置に可逆な一電子酸化波が生じた。さらに、電位を連続的に掃引すると、この酸化波は連続的に変化することが分かった。このことは、イリジウム中心の酸化に伴って、強固な水素結合ダイマー間でプロトンが移動していることを移動していることを示す結果である。また、TD-DFT法を用いて、発光挙動にかかわる電子軌道を調べた結果、水素結合ダイマー錯体では、片側のモノマーユニット内の遷移に加え、ユニット間での遷移も生じる結果を得た。このことは、励起状態におけるダイマー内での電子移動とプロトン移動が協奏して生じていることを示唆するものである。これらの結果は、これまで、水素結合は発光挙動を誘起することが難しいと考えられていたが、適切な分子設計を施すことで発光挙動を誘起できることを示すものである。
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