電子が持つスピン、電荷、光応答性に着目し、それらの相乗効果をもたらす多様な多重機能性の実現を目指して研究を行った。具体的には、磁性体である層状化合物に対し、機能性の対イオンを組み合わせることにより、磁性の制御を試みた。 (a)分子分極を持つ層間対イオン:フッ化フェニル基を回転部位として持ついくつかのカチオンを、特異な電荷移動挙動を示す鉄混合原子価錯体に挿入し、新たな分子磁性体を構築した。この際、分子サイズの比較的大きなカチオンと小さなカチオンを挿入したところ、後者については磁性層の電荷移動挙動が残るのと同時に、分極部位の回転に伴うと考えられる誘電応答も示すことが明らかとなった。この知見について、2015年の環太平洋国際化学会議(Pacifichem 2015)にて発表を行う予定である。 (b)π電子テンプレートとなる層間対イオン:これまで四面体型のカチオンの挿入が多数試みられてきた鉄混合原子価錯体に対し、特異なπ電子系を持つアゾニアヘリセンをカチオンとして導入した。当初想定された、磁性層のトポロジー変化はもたらさなかったものの、カチオンの平面性を反映した新たな錯体が得られ、強磁性的な相互作用が消失し、反強磁性的な相互作用が現れた。 (c)光異性化分子の層間挿入:コバルト層状強磁性体に対して、層間の光スイッチをもたらす目的で、光異性化分子をアニオン化し、層間に挿入した錯体を合成した。当初想定していたスルホ化によるアニオンでは、光異性化に伴う磁性の変化が観測できないことが明らかとなったが、その後、分子末端までπ電子系の拡がりを持つカルボキシル化したアニオンでは、光照射による強磁性転移温度のシフトが観測された。この結果について、2014年の分子磁性国際会議(ICMM 2014)で発表を行った。
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