研究概要 |
本年度は、ポーラス結晶[Co3(2,4-pydc)2(μ3-OH)2].9H2O (2,4-pydc = pyridine-2,4-dicarboxylate)を水熱合成法で作成し、一次元チャネルにとり込まれた水分子クラスターの誘電特性を調べた。その結果、[Co3(2,4-pydc)2(μ3-OH)2].9H2Oの誘電率が高い異方性を示すことが判った。電場がチャンネル方向に垂直な時には、誘電率が小さく、温度依存性を示さない。それに対して電場がチャンネル方向に平行な時には、200 Kと330 K近傍に大きな誘電異常を見出した。また、誘電率の温度変化に対応する、格子体積の温度変化を調べたところ、200 Kと330 K近傍に水分子の熱運動の凍結、融解に伴った構造相転移が観測された。高温領域で、誘電率の振る舞いは[Cu3Ln2(IDA)6].9H2O系(Ln = La, Nd, Sm Gd, Ho, Er; IDA = iminodiacetate)と類似しており、事実、340 K付近で反強誘電的な履歴曲線を観測し、ゲスト水分子は反強誘電的に“秩序状態”になっていることが推定される。また、[Co3(2,4-pydc)2(μ3-OH)2].9H2Oの複素誘電率の周波数依存性を調べると、230 - 280 K温度範囲でCole-Coleプロットが半円周であり、典型的なDebye型誘電緩和であることが分かった。一方、290 K以上温度で、Cole-Coleプロットが半円からはずれてゆき、誘電緩和機構も複雑になっていることが推定される。また、MDによるチャネル内の水分子の熱運動のシミュレーションの結果より、水分子は200 K以上で一次元ブラウン運動のような動きをし、200 Kで見られる誘電率の急激な減少は、水分子の位置自由度が完全に凍結したと考えられる。
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