研究実績の概要 |
本研究ではポーラス構造を持つ遷移金属錯体結晶を合成し、取り込まれたゲスト分子の熱運動の凍結、融解に伴う構造相転移と誘電異常を調べることが目的である。 今年度は、溶媒に水やDMFを用いてソルボサーマル法により、いくつかの金属錯体ポーラス結晶の合成ができた。[Mn3(3,5pydc)3(DMF)3].DMF (3,5-pydc = pyridine-3,5-dicarboxylate)は単斜晶系で、ab面に沿って二次元的なポーラス空間を持つポーラス結晶である。ポーラス空間体積の比率はやく55%で、ポーラス空間中にゲストとしてDMF分子が取り込められている。また、[Co3(CTA)2(H2O)4].2H2O (CTA = (1α,3α,5α)-1,3,5-cyclohexane-tricarboxylate)は三斜晶系で、a軸方向に沿って一次元チャンネル構造を形成し、ゲスト水分子が存在している。Co結晶中には、二種類の結晶学的に独立なCo原子が存在し、Co原子同士の距離はそれぞれ3.575及び3.291Åであり、[Co3(2,4-pydc)2(μ3-OH)2].9H2Oと同様にCo原子間に強い反強磁性相互作用が存在する事が予想される。 また、[La{(COO)2}1.5(H2O)3].2.5H2OはLa-シュウ酸のホスト格子によって蜂の巣状のポーラス空間を形成し、室温ではそのポーラス空間内disorderした二次元的な水分子層が存在している。低温では水分子がorderになり、ポーラス空間内の水分子の位置が確定し、格子体積が約三倍になったことがわかった。格子定数の温度変化を測定した結果、約250 K近傍で構造相転移があることが明らかになった。 ポーラス空間内の水分子の相転移が誘電異常として現れている事が推定され、来年度はこれらの物質の構造相転移の詳細な検討や、誘電特性の研究を進めたいと思っている。
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