研究課題/領域番号 |
25810059
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
須崎 裕司 東京工業大学, 資源化学研究所, 助教 (70436707)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | パラジウム錯体 / 白金錯体 / 複核錯体 / トランスメタル化 |
研究概要 |
アリールパラジウム(あるいは白金)錯体部分を含む単核および複核錯体の合成をおこなった。具体的には1,5-シクロオクタジエンあるいは2,2’-ビピリジンを支持配位子とするPd(II)あるいは白金(II)錯体の合成をおこなった。パラジウム錯体の合成では三叉型の有機配位子を用いるパラジウム錯体の合成に取り組み、その生成を確認している。白金(II)錯体の合成では、白金(II)-アリール炭素結合が溶液中で昇温(50 oC)すると動的な挙動を示すことを見出し、これを利用することで複核錯体合成に利用した。すなわち、二官能性トレーガー塩基と塩化白金(II)錯体の2:2の反応によって四角形型の白金二核錯体を熱力学的支配下において合成することに成功した。生成する錯体の立体構造は特に単結晶X線構造解析によって明らかにすることができた。その結果、四角形型の白金二核錯体にはトレーガー塩基部分に由来する光学異性体3種類が可能であるが、生成物がそのうち二種類の生成物に限定されている明らかにした。計算化学による結果から、この結果は生成物の熱力学的な安定性に支配されたものであると結論づけた。白金(II)-アリール炭素結合の動的挙動に関しては、特に重要な知見であるのでモデル錯体を用いて検討し、おもに速度論的な解釈および分子軌道計算の結果からそのトランスメタル化反応の機構を推測した。アリールパラジウム錯体の反応性の検討もおこない、特に一酸化炭素のパラジウム―炭素結合に対する挿入反応が円滑に進行することを見出し、なおかつ生成するアシル錯体に銀イオンを反応させた場合に分子間反応が速やかに進行してベンゾフェノンを効率的に生成することを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究計画はパラジウム三核錯体の基盤として計画されていた。本年度は、モデル錯体を含めて、単核および二核、三核のための有機配位子の合成から研究をスタートして、実際に錯体の合成にまで成功している。単核錯体からは、そのアリールパラジウム錯体部分に関する反応性の検討をおこない、分子間における配位子カップリング反応やイソシアニドおよび一酸化炭素の挿入反応を検討して、とくにアリール配位子上の置換基の立体的効果に関する知見を得た。二核錯体からは、有機配位子部分の構造によって生成物が環状化合物になったり、環状オリゴマーになったりすることを見出した。三核錯体の合成にも成功している。その三核錯体の反応からクリプタンドを合成する計画であったが、それに着手するには至っていない。ただし、パラジウムと同族の白金錯体をもちいて同様の健闘を並行して進めていたことにより、四角形型の二核錯体を効率よく合成する手法を開発するに至っている。特に白金錯体を用いた検討のなかでシクロオクタジエン配位子を有するアリール白金(II)錯体において、そのPt-C結合が溶液中で動的であることを見出すにいたった。この点に関しては錯体化学的に非常に重要な知見であるので、速度論および分子軌道計算を用いた検討までおこない、その反応機構を明らかにした。 このように当初計画したとおりにパラジウム(II)錯体に着目して研究計画を着実に進展させることができている。なおかつ同族の白金を用いる研究も並行してすすめることによって、これらの異なる金属の結果を相乗的に計画に組み込むことで、当初目的とした有機(金属)構造体の研究を着実に進捗させるとともに、錯体化学的にも重要な知見を得ることに成功している。
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今後の研究の推進方策 |
“現在までの達成度”で述べたとおり、本研究課題はおおよそ計画通りに進捗している。したがって、今後も研究計画書に記載した内容にそって研究を推進する。すなわち、有機金属をもちいた環状錯体およびクリプタンド型分子の合成から超分子合成につなげるように研究を進める。ただし当初の計画ではパラジウム錯体の中心に据えた計画であったが、初年度における実験が白金錯体を用いた場合に良好な結果をあたえることが多かったので、今後はむしろ白金(II)を積極的に活用して研究を遂行していく計画である。
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