研究実績の概要 |
触媒的不斉合成のターゲットとして報告例の限られているケイ素不斉点の新しい構築法として、遷移金属触媒によるヒドロシラン類の不斉対称化を基軸に精査を行った。前年度に見出した、①イリジウム触媒による直截的C-Hシリル化反応を用いる不斉非対称化、および、②ロジウム触媒によるオレフィン類のヒドロシリル化反応を用いる不斉非対称化の二種類の反応について、配位子検討によるさらなるエナンチオ選択性の向上、基質適用範囲の精査、および触媒構造の確認のための補足実験などを行った。 ①直截的C-Hシリル化反応 Hartwigの直截的C-Hシリル化反応に有効な配位子である1,10-フェナントロリンに不斉環境を組み込んだ新規キラルフェナントロリン配位子を立案し、実際に二つの同一のフェネチル基を有するヒドロシラン類の不斉非対称化を検討したところイリジウム触媒存在下で良好な収率で、フェネチル基芳香環とヒドロシランとの間で分子内直截的C-Hシリル化反応が進行し、目的とする環状有機ケイ素化合物が最高77%eeで得られた。 ②ヒドロシリル化反応 ①の反応の検討過程で見出したキラルフェナントロリン配位子を用い、二つの同一のオレフィンを分子内に有するヒドロシランの不斉非対称化を検討したところイリジウム触媒では反応が進行せず、代わりにロジウム触媒が有効であることを見出した。ケイ素上の芳香環の置換基効果や、オレフィン側鎖の基質適用範囲の精査を行うことで、最高91%eeで目的とする環状有機ケイ素化合物が得られた。また、本キラルフェナントロリン配位子は分子内にフェノール性水酸基を有しており、N,N,O-三座配位のロジウム錯体が活性な触媒として機能していることをNMR実験などから確認した。 本研究で見出した新規フェナントロリン配位子は、上述の反応の他、有機亜鉛試薬の不斉求核付加反応などにも有効であることを見出したので併せて報告する。
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