本研究課題は、2つのフェノール部位をジピリン骨格で架橋した直線型のONNO三価四座配位子を有する鉄錯体を触媒として用いた不斉酸化反応を開発すること、および同配位子を有する他の金属錯体の触媒能について明らかにすることを研究目的としている。 前年度までの研究によって、2つのフェノール部位をジピリン骨格で架橋した直線型のONNO三価四座配位子を有する鉄錯体が、当初の目的通りに、空気下において1-フェニルエタノールをアセトフェノンへと酸化できることを明らかにすることができた。さらに、光学活性な配位子および鉄錯体の合成も行い、この錯体がラセミ体2級アルコールの空気酸化による速度論的分割を触媒することも見出した。 そこで平成27年度の研究では、これまでの研究で得られている光学活性な配位子を有する鉄錯体およびその他の金属錯体を触媒として用いた不斉反応の開発を行った。その結果、鉄錯体を用いると、エナンチオ選択性は低いものの、ヘテロDiels-Alder反応が高収率で進行することを見出した。さらに、ルテニウム錯体はジアゾ化合物を用いた不斉シクロプロパン化反応において90% ee程度の高いエナンチオ選択性を示すことを見出した。例えば、スチレンのシクロプロパン化において、ジアゾ化合物としてジアゾ酢酸エチルを用いると、高シス選択的に反応が進行し、最高90% eeで目的のシクロプロパン化合物を得ることに成功した。一方、トリメチルシリルジアゾメタンを用いた場合には、高トランス選択的に反応が進行し、92% eeの高いエナンチオ選択性でシクロプロパンを与えることが分かった。 これにより、2つのフェノール部位をジピリン骨格で架橋した直線型のONNO三価四座配位子が効果的な不斉空間を構築できることを明らかにした。
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