固体基板上に高分子融体を滴下した時の広がり方には接着やぬれ、摩擦などの界面現象が大きく関係しているが、高分子融体の流動メカニズムや分子量依存性は現在でも未解明のままである。これらを明らかにするには流動場中で高分子鎖を直接観察するしか方法はないが、これまでそのような実験データはない。高分子融体が固体基板上に広がる場合、その流動先端には単分子膜レベルの厚みを持ったPrecursor filmが広がっていることが知られている。本研究では、そのPrecursor filmを観察することで、流動場中での高分子鎖の運動を分子レベルで直接観察し、流動場におけるPMMA高分子鎖の運動性について検討した。初年度は、AFMの顕微鏡本体をアクリルケースに密閉し、その中に恒温恒湿装置から出てくる空気を導入することにより、湿度を制御しながらAFMのその場観察を行うことに成功した。また高分子量PMMA/PMMAオリゴマーを恒温恒湿下で観察することにより、Precursor filmの流動速度を求めた。 最終年度は、この高分子量PMMA/PMMAオリゴマーにおいて、様々な湿度下つまりPrecursor filmの流動速度を変化させて、流動場中での高分子鎖の運動を分子レベルで直接観察することを検討した。その結果、以下のことを達成した。 (1)低湿度下ではオリゴマーは流動するが、高分子量PMMAはほとんど展開せず凝集体になった。また、高湿度下ではオリゴマーに加えて、高分子量PMMAも展開することがわかった。 (2)AFMで固体基板上に流れる低分子量PMMAの運動を観察することに成功し、拡散係数を求めることができた。
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