研究課題/領域番号 |
25810077
|
研究種目 |
若手研究(B)
|
研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
檜垣 勇次 九州大学, 先導物質化学研究所, 助教 (40619649)
|
研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
|
キーワード | トライボロジー / 分子鎖形態 / 小角X線散乱測定 / 中性子反射率測定 / 植物由来樹脂 |
研究概要 |
リビングラジカル重合法によるPMBLの精密重合反応に成功し、分子量の制御されたPMBLブラシ薄膜の調製方法を確立した。シリコンウエハ上に調製したPMBLブラシ薄膜の弾性率、摩擦/摩耗性を評価し、PMMAと比較して高弾性率、高摩耗耐久性を発現することを明らかにした。この、PMBLの優れた弾性率、高摩耗耐久性の起源を明らかにすべく、溶液中におけるPMBLの分子鎖形態、溶媒浸漬状態におけるPMBLブラシ薄膜の膨潤状態評価により、PMBL分子鎖の剛直性、ならびに膨潤特性を解明した。 小角X線散乱(SAXS)測定、SEC-MALS測定により、溶液状態におけるPMBL分子鎖形態を評価した。その結果、PMMAとPMBLの分子鎖剛直性に大きな差がないことが明らかとなった。すなわち、嵩高くエステル結合に由来する双極子を持つラクトン環を側鎖に有するPMBLは、その分子鎖剛直性により、高弾性、高摩擦耐久性を発現すると考えられていたが、環状側鎖による分子鎖の剛直性よりもバルク状態における分子間相互作用がPMBLの力学物性において支配的であると考えている。 さらに、溶媒浸漬状態における膜の膨潤状態を、大強度陽子加速器施設(J-PARC)において中性子反射率測定により評価した。側鎖の環状化に起因する密度の増大、表面自由エネルギーの増大により、構造類自体であるPMMAとは異なる膨潤挙動を示すことが明らかとなった。この知見は、膨潤状態における膜の潤滑特性を考察する上で非常に重要な知見となり得る。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初、平成25年度に予定していた液中摩擦試験では、PMBLの特徴的な物性が観測されず、中性子反射率測定がJ-PARCハドロン実験施設にて発生した放射性物質漏えい事故により遅延したため、平成26年度に予定していた小角X線散乱測定による分子鎖形態評価を優先して実験を行い、PMBLの分子鎖形態の精密解析からその剛直性を評価し、PMBLの高弾性、高摩耗耐久性が、環状側鎖による分子鎖の剛直性でなく、バルク状態における分子間相互作用により発現していることを解明した。本研究成果は、PMBLの物性発現機構の解明にとどまるものではなく、高分子側鎖の環状化が高分子材料の物性に及ぼす効果と、その発現機構を明らかにするものであり、機能性高分子材料設計に非常に意義深い。計画が前後したものの、本研究目的のPMBLの分子特性解析に基づく物性発現機構の解明は確実に進展しており、おおむね順調に進展していると評価した。
|
今後の研究の推進方策 |
平成26年度は、運転を再開したJ-PARC物質・生命科学実験施設において中性子反射率測定における分子鎖形態解析を進めることにより、環状ラクトン環骨格が高分子材料物性に及ぼす効果を明らかにするとともに、PMBLの分子特性を活かした機能性材料設計を進める。液中潤滑特性だけでなく、耐熱性植物由来ブロック共重合体や、耐熱性エラストマーの構成要素としてPMBLの利用を提案し、創製した材料の構造と物性を多面的に評価する。ブロック共重合体やエラストマーを設計し、その構造・物性を評価する上で、溶液散乱測定により得られた分子鎖剛直性、分子間相互作用に関する知見は非常に有用であり、この知見に基づいた多様な分子設計を考えている。
|
次年度の研究費の使用計画 |
研究室所有の試験機を用いた液中摩擦試験においてPMBLの特徴的な物性が観測されなかったため、当初設備備品費として計上していた小型卓上摩擦・摩耗試験機の仕様変更の必要性が生じた。 平成26年度予算に計上していた、小角X線散乱測定、中性子反射率測定の消耗品、及び実験のための旅費、学会発表のための旅費、成果発表のための経費は計画通り使用する予定である。平成25年度に購入を見合わせた小型卓上摩擦・摩耗試験機は、薄膜の摩擦特性を評価できる仕様を考慮して導入を検討する。
|