前年度に引き続き、グルタチオンを原料として合成したカーボンナノドット(以下、GSHーCND)の発光挙動について検討を進めた。電気炉による加熱分解反応の条件は、原料1g、加熱温度250°C、加熱時間2時間が最適であることが分かった。限外ろ過フィルターによって精製したGSHーCNDは、紫外可視吸収スペクトルにおいて、326nmに酸素を含んだ表面官能基に由来するnーπ*遷移の吸収極大を示し、吸収極大波長における吸光度は100mg/L程度まで直線性を示すことが分かった。励起波長を吸収極大波長とした発光スペクトルでは、373nmの発光極大における発光強度は20mg/L程度までGSHーCNDの濃度に対して直線的に増加することが確認された。 酸化還元剤の添加によるGSHーCNDの発光挙動変化について詳細に検討した。代表的な4種の酸化剤(KMnO4、K2CrO7、KClO3、NaClO)と、3種の還元剤(H2O2、NaBH4、Na2S2O3)とGSHーCNDを混合し、発光強度変化を計測したところ、KMnO4とNaClOで発光強度減少が確認された。CNDの発光機構は、表面官能基による励起子のトラップによる緩和過程が有力である。KMnO4やNaClOによって表面官能基が酸化されることで、励起子がトラップされる確率が低下したために、発光強度が減少したものと考えられる。また、酸化剤によって発光強度が減少したGSHーCNDに対して、還元剤を追加しても発光強度の回復が見られなかったことから、KMnO4やNaClOによるGSHーCNDの酸化は不可逆的であることが分かった。一方で、K2CrO7でも発光強度の減少が見られたが、内部フィルター効果によるものであり、GSHーCNDそのものは酸化されていないことが確認された。以上により、CNDの発光過程には表面官能基の酸化状態が密接に関連していることが示された。
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