研究課題/領域番号 |
25810095
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
伊原 正喜 信州大学, 農学部, 助教 (50391868)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | ヒドロゲナーゼ / 発現系 / 分子進化工学 |
研究概要 |
平成25年度は、[NiFe]-ヒドロゲナーゼの発現系の改良と、スクリーニング系の改良を目標とした。発現系として、高いヒドロゲナーゼ発現能を有する水素細菌Ralstonia eutropha(R. eutropha)のヒドロゲナーゼ遺伝子破壊株HMU01を宿主とし、プロモーターとヒドロゲナーゼ遺伝子を挿入した広宿主域ベクターpBHR1を用いた独自の系をすでに完成させていたが、ヒドロゲナーゼ活性は痕跡量であった。そこで、ベクター側のプロモーターに変異を導入したpBHR7~9を作製し、さらにHMU01株のヒドロゲナーゼオペロン側にプロモーターを追加したMHU04を作製し、それぞれを組み合わせた発現系を検討した。その結果、pBHR9とHMU01並びにpBHR9とHMU04の組み合わせから有意なヒドロゲナーゼ活性が発現されることを突き止めた。さらに、水素雰囲気下で培養を行った場合を検討し、pBHR1とHMU04の組み合わせから高いヒドロゲナーゼ活性が観察された。その活性は野生株の半分程度であったが、進化工学を行う上で十分であり、当初の予定が達成されたことを示している。さらに平成26年度の実験を前倒しで進めるために、ベクター上のヒドロゲナーゼ遺伝子へのランダム変異導入を行い、ライブラリーを作製した。ハイスループットスクリーニング系の開発は平成26年以降の計画であったが、今回は96ウェルプレートを用いて、すべて人力で約3000クローンについて、水素分解能を指標にスクリーニングを行い、優位に水素分解能が向上した変異体の単離に成功している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の予定では、これまでの開発した発現系では、活性型ヒドロゲナーゼは痕跡量が確認されたにすぎなかったが、分子進化工学への適応が可能なレベルにまで発現系を改善することを目標とした。その目標は、上記の通り達成され、その成果はすでに特許出願を済ませ(特願2013-249437)、投稿準備中である。さらに平成26年度で実施予定であったヒドロゲナーゼ遺伝子へのランダム変異導入を行い、ライブラリーを作製し、予備実験としてスクリーニングもすでに実施している。
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度以降は、ハイスループットスクリーニング系の開発を進める。具体的には、ベクターを導入した宿主をそれぞれカプセルに包埋し、その中で培養、溶菌、さらには活性評価可能なシステムを考案中である。カプセルは、リポソームを検討するほか、専用のマイクロカプセルを開発する予定である。カプセル内には、あらかじめリゾチームを包埋した光応答性のリポソームと、pH依存蛍光プローブも同時に閉じ込めておく。培養後、光照射によってリポソーム内のリゾチームを開放させて溶菌を促し、さらに還元的雰囲気下に置くことでヒドロゲナーゼによる水素発生反応(2H+ + 2e- → H2)を進める。ヒドロゲナーゼ活性が高いほど、カプセル内のpHが上昇することが予想されることから、pH依存蛍光プローブの蛍光が増加するために、ソーターで高活性クローンを分離することができると考えている。 また、ヒドロゲナーゼの酸化速度については、これまで標準化された方法論が存在しておらず、さまざまなヒドロゲナーゼの酸素に対する安定性に評価方法が統一されていなかった。我々は、現在までに共鳴ラマン測定において、酸化還元に伴うスペクトル変化から速度論が議論できることを予備実験で示しており、引き続き詳細な検討を進める予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
物品費として、遺伝子工学試薬を多く予定していたが、DNAの連結反応方法をより効率的な方法に変更したところ、大幅に成功率があがり、予定よりも少ない予算で当初の目標を達成したため。 当初の計画では、水素発生能を指標にしたヒドロゲナーゼ変異体のスクリーニングにおいて、光触媒を利用した電子供与と水素検出素子による活性評価を予定していた。しかし、水素検出素子の感度と再現性の問題を考慮して、以下のような原理によってスクリーニングを行うことを予定している。まず、ヒドロゲナーゼを発現しているバクテリアを、リポソームやマイクロカプセル内に閉じ込める。続いて、溶菌した後に、電気化学的手法によって電子供与を行う。水素発生が起これば、それに伴ってリポソームやマイクロカプセルにpH変化が生じるために、pH感受性蛍光プローブで容易に感度よく検出ができると考えられる。平成26年度では、ハイスループットスクリーニング法という既存技術だけで解決困難な課題に取り組むために、リポソームやマイクロカプセル技術の開発に多くの試行錯誤が必要であり、その開発費に予算を使用する予定である。
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