平成27年度では、[NiFe]-ヒドロゲナーゼの精製手法に課題があったため、共同研究者であるドイツ・ベルリン工科大学レンツ教授の下で精製方法を習得し、その結果、[NiFe]-ヒドロゲナーゼ精製を成功させることができた。そこで、平成28年度に[NiFe]-ヒドロゲナーゼランダムライブラリから単離した高活性変異体について、精製し再評価したところ、意外にも、活性は野生型の十分の一以下であった。精製前の細胞抽出液中の総活性は、野生型と比較して有意に高いことから、以下のように考察できる。活性型の[NiFe]-ヒドロゲナーゼは、酸素存在下で酸化される事で、不可逆的に失活する事が知られているため、新しい精製方法では、酸化剤を用いることで、可逆的に再活性化可能な状態に変換して安定的に精製を進めることができる。しかし、変異体は、活性型として野生型と同等以上に発現したものの、酸化剤添加によっても不可逆に失活したため、活性が低くなったと考えられる。この仮説が正しければ、変異体のアミノ酸変異部位は、活性中心から遠く離れた、電子プール機能を有する鉄硫黄クラスター近傍であることから、鉄硫黄クラスターが可逆的失活と不可逆的失活をコントロールしている可能性が浮上する。[NiFe]-ヒドロゲナーゼの失活仮定や、可逆的失活と不可逆的失活のコントロールは、ヒドロゲナーゼ研究において、最も重要な課題であるが、今回の変異体の更なる解析によって新たな知見が得られものと期待できる。現在、この仮説を実証するために、失活状態の変異体の分光学的測定を予定している。
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