研究実績の概要 |
生物の行なう光合成反応では、光エネルギーで電荷分離反応を行なうコアアンテナ-反応中心膜タンパク質(LH1-RC)と、LH1-RCが反応に使えない短波長域の光エネルギーを集め、LH1-RCの使えるエネルギーレベルに下げてLH1-RCへ伝達する周辺アンテナ膜タンパク質(LH2)が隣接し協同的にはたらくことで、幅広い波長域での光エネルギー変換を実現している。本研究では、光合成生物からLH1-RCとLH2をそれぞれ単離し、その物性評価から得られる知見をもとに、生体高分子を用いた光エネルギー変換素子の構築を目指す。 平成25-26年度では、紅色光合成細菌Rba.sphaeroidesのLH1, LH2の遺伝子に改変を加え、変異株を作製した。作製した変異株は、LH1-αのN末端、C末端、LH2-αのC末端、LH2-βのN末側にそれぞれヒスチジンタグを導入した。ヒスチジンタグの導入されたLH1-RC, LH2をそれぞれDithiobis(C2-NiNTA)で表面修飾した金電極に固定化した。電極上のLH1-RC, LH2と水溶液中の吸収スペクトルは、良く一致し電極上でLH1-RC, LH2は変性していないことが明らかになった。また、電極上に固定化したLH1-RCにLH1-RCの最大吸収波長を照射することにより、引き起こされる電子の流れを計測した。観測された電子の流れは、ヒスチジンタグにより分子配向されたLH1-RCの分子配向と一致したため、ヒスチジンタグによりLH1-RCの分子配向が制御可能であることを明らかにした。平成27年度では、膜タンパク質の基板上への固定化量を明らかにするため、金をコートした水晶発振子上へのLH1-RCの固定化を進めた。LH1-RCの固定化量を求めたところ、単分子レベルで吸着している量とよく一致し、吸収スペクトルから求められる吸着量とほぼ一致した結果が得られた。
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