研究課題/領域番号 |
25810099
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
大洞 光司 大阪大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (10631202)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | ヘムタンパク質 / 光増感剤 / 光捕集 / 超分子 |
研究実績の概要 |
本研究では、ヘムタンパク質6量体HTHPを基盤とした光増感色素の集積化および光触媒への展開を目指している。研究の2年目である本年度は、集積化した光増感剤の評価と他の増感色素への応用を目的とした。まず、HTHPの大量発現系の構築と精製条件について、更なる最適化を実施し、前年度の手法よりも多く調製できるようになった。このHTHPからヘムを除去し亜鉛ポルフィリンを滴下して、吸収スペクトルを評価すると、ヘム結合部位に対して1対1の錯形成をしていることが明らかになった。昨年度実施した蛍光消光実験に加えて、消光剤存在下でレーザーフラッシュフォトリシス測定を行ったところ、エネルギー移動が原因と考えられる励起状態の失活が観測された。この結果から、色素間でのエネルギーマイグレーションが起こっていることがより強く支持され、HTHPが光捕集のための色素集積化に有用であることがわかった。更なる光捕集効率の向上を目指して、いくつかのHTHP変異体を設計し、既に調製している。また色素についても、合成法を工夫し、近赤外光を吸収できる新規のポルフィリノイド化合物を調製した。 今後HTHPによる集積化を実施するために水溶性の向上を図る予定である。上記の成果の一部は、既に関連するいくつかの学会で発表し高い評価を得ている。特に関連の深いバイオ関連化学シンポジウムでは研究代表者自身が講演賞を受賞した。また学術論文として投稿予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の目的であったHTHPを基盤とした光増感剤の集積体についての詳細な光化学的評価を実施することができた。計画当初は予定していなかったフェムト秒過渡吸収分光が共同研究により可能になったため、本系におけるエネルギーマイグレーションの移動速度をおおよそ見積もることができた。亜鉛ポルフィリンと亜鉛クロリンを含む二種の光捕集系で評価を実施したところ、色素によって優位な差が観測された。しかしながら、光合成細菌の光捕集系LH2と比較すると、改善の必要がある。そこで、新規にHTHPの変異体設計と新たな色素の調製を実施した。これらを基盤とした光捕集系のエネルギーマイグレーションの効率を詳細に評価することで、効率の向上と新たな光捕集系の設計指針がたてられると大いに期待できる。タンパク質を基盤とした系で超分子的に光捕集系を構築した報告は少なく、HTHPタンパク質マトリクスの構造を利用することで、配向を制御しながら光増感剤を集積化できることを実験的に示した。また構造の予想が容易なことから新たなタンパク質マトリクスや色素の設計が可能な系であり、それらの定量的な評価に向けた指針を得ることができた。
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今後の研究の推進方策 |
本年度でHTHPを基盤とした光捕集系の詳細な評価を行なうことができた。今後は、新規な色素と変異体を用いた光捕集能の効率化および触媒能発現部位の導入により光合成モデルの構築を図る。新規な色素としては、拡張型ポルフィリンやポルフィセンを用いる。それぞれ可視領域に強い吸収を有するので、亜鉛ポルフィリンの系よりも太陽光利用の観点から魅力的である。より定量的な議論を行なうために過渡吸収スペクトルにより実際のエネルギー移動の速度を見積もる。特に構造から理論的に予想される速度と比較し、論理的に更なる効率化を実施する。次に、触媒部位については特に亜鉛ポルフィリン等でも還元可能なコバロキシム錯体の導入を検討する。また近年活性が高いと言われているニッケル錯体についても検討する。導入位置については環状集合体の中心に位置する孔部分で、そこに位置する特定の残基を変異導入法によりシステインに置換し、部位特異的な触媒部位の導入を実施する。実際にエネルギーマイグレーションが光触媒にまで影響する系は多くないので、条件検討を重ねる必要が有ると予想される。他にも更なる巨大集合体に展開し、より高い光捕集能を実現することで、天然の光合成系により近いシステムの構築をめざす。得られた成果は学会や学術論文により積極的に発表する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度では、光捕集系の詳細な評価を達成したが、当初予定していた触媒部位導入については行なうことが出来なかった。これは、フェムト秒過渡吸収分光に必要なサンプル量が予想以上に多かったためであり、タンパク質の大量調製・精製条件の再検討に対して時間が掛かってしまったことが主な理由である。未使用額については、光化学特性の詳細な評価のため触媒部位の合成を先送りにしたことにより、結果として合成試薬の経費が浮いたためである。したがって次年度には合成試薬の経費が物品費の多くを占めることになる。当初の計画より若干の遅れはあるものの、確立した評価法等は汎用性が高いので、当初の全体の計画の大部分はスムーズに展開出来ると予想される。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度は触媒部分の分子の合成に精力的に取り組むので、物品費の多くを合成試薬やガラス器具等の消耗品に使用する予定である。一方で、光捕集効率化を指向した変異体や触媒を固定するためのシステイン残基を導入した変異体作成のための生化学試薬、6量体構造評価のためのゲル濾過カラム、触媒活性評価や蛍光寿命測定用の特殊石英セルなどの高価な消耗品も円滑な研究の進行のために複数必要になる。また本研究の最終年度であるので国際学会での発表や学術論文誌での成果報告も予定しており、予算の一部を旅費および英文校閲費に充てる。
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