研究課題/領域番号 |
25810103
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
折本 裕一 九州大学, グリーンアジア国際リーダー教育センター, 助教 (00398108)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 機能性人工核酸 / DNA / 電子状態計算 / O(N) Elongation法 / スルースペース/ボンド相互作用解析法 / 導電性 / 強磁性 / 非線形光学(NLO)特性 |
研究概要 |
近年、人工核酸が次世代材料・薬剤として期待されているが、所望の特性を持たせるには電子論的立場からの設計が今後重要となる。本研究では、高分子の重合反応を計算機上で模倣し、反応末端のみ解くことで超高速かつ超高精度を実現する、当グループで開発してきたElongation(ELG)法を基盤とし、従来法で扱えないサイズの人工核酸の分子構造と物性の関係を高精度に把握することで、当該人工核酸の導電性・磁性・非線形光学特性等の理論的機能設計を可能とする手法構築を行う。 H25年度はまず、ELG法を様々な人工核酸モデル(化学修飾型、金属錯体型等)に適用し、安定的に計算可能か検証を開始した。化学修飾型では、糖リン酸鎖へのドナー置換、塩基対へのフッ素置換等を行い、ELG法が化学精度を十分保つことを確認した。金属錯体型では従来法・ELG法ともにSCF収束性が悪く、最終的に安定計算へ一定の目処は立ったが検討の余地が残る結果となった。その中でも、Cuを含む系でELG法のSCF収束性が従来法よりも良いケースが見られ、本手法の優位性を確認できた。 次に本ELG法を基盤に、各伸長ステップにおいて様々な付加ユニットをテストして所望の特性について最適なものを自動選択しつつ伸長させる「特性最適化ELG法」の開発に着手し、現在手法設計を行っている。 また、機能発現機構の解明による特性最適化の高精度化を目的として、人為的な軌道収縮により軌道間相互作用を定量評価する、当グループで別途開発してきたスルースペース/ボンド(TS/TB) 解析法とELG法を結合させ、全系の一部の解析から特定の軌道間相互作用と物性の関係を解明するための「ELG- TS/TB解析法」の開発を進めており、当該結合作業を行っている。 これらの両手法はH26年度に完成次第さらに統合し、実際に機能性人工核酸の理論設計を試みる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初、H25年度の早い段階でElongation(ELG)法の人工核酸への適用と計算安定性の検証を終え、理論的機能設計法の核となる二つの手法「特性最適化ELG法」・「ELG-TS/TB解析法」の開発に移る予定であったが、SCF収束性の問題をはじめ、人工核酸の安定計算検証に目処が立つまでに予想以上の試行錯誤が必要であったため、当該手法構築の開始に遅れが出た。しかしながら、ELG法の人工核酸への適用は初めてであったこともあり、精度よく安定的に計算できることを検証することは、その後の研究計画全体の基礎となる最重要部分であり、特に慎重に進める必要があった。まだ課題も残っているが、基盤技術であるELG法で人工核酸を精度よく計算できることが確認できたことは今後の展開にとって大きい。また、これとは別に、特性最適化ELG法・ELG-TS/TB解析法についても、並行して開発を進めている。 上記を考慮して、「やや遅れている」という自己評価を行った。
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今後の研究の推進方策 |
H25年度内に終わらなかった計画の残り(「特性最適化ELG法」・「ELG- TS/TB解析法」の手法開発)、および、H26年度序盤に予定していた実用的設計ツールとして完成させるための手法の調整・改良を合わせてH26年度前半を目処に行う。H26年度に予定していた本手法の応用計算(機能最適化)を年度後半に集中して行うこととなるが、その準備として、前半時期に手法開発と並行してクラスタ計算などを駆使して核酸の機能に関する基礎情報を蓄積する。これらの知識をもとに後半の人工核酸への機能付加を効果的・効率的に行えるようにする。 年度後半は具体的に、代表的な特性である導電性、磁性、非線形光学特性、熱安定性等に注目して人工核酸の様々な機能設計に本手法を適用し、その有効性と汎用性を検証する。その後、さらに優れた機能(高機能)、及び複数の特性を併せ持つ(多機能)人工核酸の理論設計を試みる。 研究過程で気を付ける点として、高効率・高精度を両立したELG法を基盤とした手法構築を行う中でその特長が損なわれることのないよう注意を払って手法開発を推進する。たとえ計画通り進まない状況に陥っても、計算対象の簡単化や問題の切り分けを行い、さらに手法自体の見直しなど原点に戻って再検証しつつ、着実な前進を試みる。その際、研究協力者とも随時意見交換をしつつ、協力して問題解決にあたる。また、年度内に目標を達成すべく、研究計画の見直しも適宜行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
当初、H25年度後半に「特性最適化ELG法」・「ELG-TS/TB解析法」の方法論検証を行い、その段階で多様なモデルに適用して多くのデータを取り扱う予定であったが、基盤手法であるELG法の人工核酸への適用と計算安定性の検証に予想以上に時間がかかり、その段階まで進めることができなかった。これにより、関係する大型計算機レンタル料、物品(データ記憶装置、ソフトウェア等)、謝金(計算・データ解析補助など)等への使用額が予定を下回った。 これらの項目の使用は、H26年度前半の方法論検証に合わせて組み込む予定である。前年度の研究計画の遅れから、H26年度は研究内容とともに使用額も当初予定よりも多いが、効果的に運用するよう注意を払って研究を推進する。
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