タンパク質の分子修飾(ケミカルラべリング)は生命科学の研究において有用な手法であるにもかかわらず、現在汎用されている方法は求電子的修飾剤と求核性アミノ酸残基(主にリシン残基とシステイン残基)との共有結合形成反応に限られている。そのような背景の中で本研究においては、①タンパク質チロシン残基に対する特異的なラベル化法と②タンパク質混在系において標的タンパクを選択的にラベル化する方法の開発に成功した。 ①タンパク質チロシン残基に対する特異的なラベル化法の開発においては、一電子酸化触媒を用いた方法論を開発するに至った。Ru(ルテニウム)光触媒を用いてチロシン残基を一電子的に酸化させ、生じるチロシルラジカルを特定の化学構造を持つ分子(Tyrosyl Radical Trapper: TRT)と共有結合させることでチロシン残基との間に効率的に共有結合を形成させることを見出した。また一方で、最終年度では鉄ポルフィリン錯体を一電子酸化剤としたアプローチにおいても、従来法よりも高いチロシン残基選択性で高効率なタンパク質ラベル化法を開発するに至った。 ②タンパク質混在系における標的タンパク質選択的なラベル化法の開発においては、特定のタンパク質に親和性のあるリガンド分子とRu光触媒を連結させた分子を設計し、それを用いて、タンパク質の混在系や生細胞中の標的タンパク質を選択的にラベル化することに成功した。 さらに、リガンド連結型のRu光触媒は標的近傍で一重項酸素を発生させることから、標的タンパク質に選択的な酸化的失活(ノックダウン)を誘導させることも可能であった。最終年度では、TRT添加の有無によってタンパク質のノックダウンとラベル化の両反応を制御できることを明らかにした。
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