研究課題
若手研究(B)
糖鎖-糖鎖間相互作用のメカニズムを分子レベルで解明するためには、人工糖クラスター化合物を用いたモデル系にて研究を行うことが有効である。本研究において我々は、糖クラスター化合物として分子内に6つの糖鎖を有するトリスビピリジン鉄錯体を利用し、糖鎖-糖鎖間相互作用のメカニズム解析を行った。実際の実験では、まずラクトース、グルコース、ガラクトース、N-アセチルグルコサミンなどのp-アミノフェニル配糖体と、2,2-ビピリジン-5-モノカルボン酸クロライドをアミド縮合させたのち脱アセチル化することにより、ラクトース、グルコース、ガラクトース、N-アセチルグルコサミンというそれぞれの糖鎖が2つ結合したビピリジン誘導体を作製した。様々な手法にて厳密な精製作業を行ったのちに水溶液中で鉄イオンと混和させることで、これらの糖鎖を3残基有するトリスビピリジン鉄錯体を構築した。アルカリ金属またはアルカリ土類イオンを含まない水溶液中でこれら糖修飾トリスビピリジン鉄錯体のCDスペクトルを測定したところ、全ての錯体においてΔ型がΛ型より過剰に存在していることが解った。一方で、様々なイオン(Ca2+/Na+)共存下でCDスペクトルを測定したところ、Lac修飾型錯体およびGlcNAc修飾型錯体に関してのみ、これらのイオン濃度の上昇に伴ってΔ型異性体の存在比が更に上昇することが確認された。これらのイオンによってΔ型の異性体内部でLac-LacまたはGlcNAc-GlcNAc相互作用が誘起され、Δ型異性体を更に安定化させたと考えられる。また、Δ型異性体の安定性向上を引き起こす程度は、Lac修飾錯体ではCa2+ > Mg2+ > Na+ = K+の順であったが、GlcNAc修飾型錯体ではイオン種における違いは観測されなかった。
2: おおむね順調に進展している
当初の予定通り、糖で修飾したビピリジンリガンドの合成に成功し、更にこれらと鉄イオンとの錯化が進行することが確認できたこと。さらには得られた糖修飾トリスビピリジン鉄錯体のコンホメーション解析を様々なアルカリ(土類)金属イオン存在下で行い、これらのコンホメーションがカチオン濃度依存的に変化することを確認し、糖鎖間相互作用のメカニズム解析のためのプラットフォームとして本分子システムが有用であることが確認できたたため。
大きな問題も無く順調に進んでおり、推進方策に大きな変更はない。
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Tetrahedron
巻: 69 ページ: 3019-3026
10.1016/j.tet.2013.01.095