研究課題/領域番号 |
25810105
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研究機関 | 東洋大学 |
研究代表者 |
長谷川 輝明 東洋大学, 生命科学部, 教授 (90423566)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 糖鎖間相互作用 / 動的コンビナトリアルケミストリー / 動的コンビナトリアルライブラリー |
研究実績の概要 |
ラクトース(Lac)は細胞膜の主要なスフィンゴ糖脂質であるラクトシルセラミド(LacCer)の糖鎖部位として、細胞膜上に大量に存在し、LacCer-LacCer間、またはLacCer-GM3間の選択的な糖鎖間相互作用(CCIs)を介して、各種細胞接着を誘起している。しかし、これらのCCIsにLacのどの部位が関与しているのか、どういったイオン種の存在によりCCIsが誘起されるのかについてはまだあまりよくわかっていない。我々は主としてLac-Lac間に働くCCIsの作用機序を明らかにするため、5および5'位にLac残基を共有結合的に導入した2,2'-ビピリジン(bpyLac)を用いた、動的コンビナトリアルケミストリーに基づくアプローチにて研究を行った。bpyLacに十分量のFe2+を加えると、両者の錯化により、糖を6残基有するトリスビピリジン鉄錯体を与える。この錯体は2種類のジアステレオメリックな異性体を構成要素とする動的コンビナトリアルライブラリーを与えることに特徴がある。我々は上記のLac錯体に加え、マルトース(Mal)を6残基有するMal錯体も同時に調製し、これを参照物質として用いた比較実験も行ったが、非常に興味深いことに、これら2種の錯体はイオン添加に対して異なる応答性を示した。例えばMal錯体はイオンの添加により沈澱を与えるものの、Lac錯体では遥に高濃度の塩を加えても沈澱は一切観測されないこと、さらには塩添加による円二色性分散(CD)スペクトルの変化が、Mal錯体の場合は通常のラングミュア型なのに対し、Lac錯体ではユニークな2段階の変化を示すことなどである。様々なイオンを用いた比較実験の結果、Lacの非還元末端側のガラクトシド残基が、各種イオンとの相互作用に重要な役割を担っていることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度の研究状況報告書にて、Malを導入したトリスビピリジン鉄錯体を合成し、Lac錯体とのイオン応答性を比較することにより、Lacのどの部位がLac-Lac間のCCIsに関与しているのかを明らかにすることを今後の研究の推進方策として挙げた。昨年度の一年間で、この推進方策に則ってほぼトラブルなく研究を推進することができている。また、論文執筆に必要なデータもほぼ集めることができており、現在執筆作業を集中的に行えている状況であるため。
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今後の研究の推進方策 |
トリスビピリジン鉄錯体を用いたコンビケム的手法により、CCIsのメカニズム解析が可能であることはこれまでの研究で明らかとなった。しかし、これまでの手法では、糖修飾ビピリジンを得るために糖に対する多段の化学修飾が必要で有り、LacやMalのような安価な二糖しか導入に成功していない。より強いCCIsに関与しているといわれる複雑な生理活性オリゴ糖に研究を広げるには、より簡便に糖鎖をビピリジン骨格に導入するための方法論の確立が重要である。そこで今年度は、5および5'位に末端アルキン部位を共有結合的に導入した2,2'-ビピリジン(bpy-yn)をあらかじめ合成しておき、還元末端をアジド化した各種オリゴ糖とHuisgen環化させることで糖修飾ビピリジンを簡便に合成し、そのCCIsを評価することを目標に据える。還元末端をアジド化した各種オリゴ糖は、市販の天然オリゴ糖に対して、CDMBIおよびNaN3を作用させることで簡便かつ1段階で合成できるとの報告が有り、この手法を利用することで複雑な生理活性オリゴ糖を簡便にビピリジンに導入できると考えられる。
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