研究課題
細胞膜上においてスフィンゴ糖脂質は水平凝集し、「糖マイクロドメイン」を形成している。また、糖マイクロドメイン同士の糖鎖-糖鎖間相互作用(CCIs)により、その後の細胞接着が誘起されることも明らかになりつつある。しかし、CCIsのメカニズムは未だ明らかとなっていない。本研究課題では、糖を導入したトリスビピリジン鉄錯体を合成し、そのコンホメーション解析によりCCIsの評価を行ってきた。例えばラクトース(Lac)またはマルトース(Mal)を有するトリスビピリジン鉄錯体を調製し、ここにアルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩を添加して、円二色性分散(CD)スペクトル測定を行ったところ、塩の存在により錯体内の糖空間配置が大きく変化することを昨年度までに見出している。この結果は実際の細胞膜上においても、糖マイクロドメイン内の糖空間配置がイオンの存在によって大きく変化し、それをスイッチとして最終的な細胞間CCIsが誘導されていること示唆するデータである。今年度はどの様なイオン種が上記の糖空間配置の変化を引き起こすのかについて、さらに多様なイオン種(アニオンを含む)を用いて網羅的解析を行った。これらの錯体は塩非存在下において弱いながらもΔ型錯体特有のCDスペクトルを示したが、硝酸塩を加えた場合、Mal錯体のCDスペクトルは強いΛ型のスペクトルに変化した。このことは塩の添加によりΛ型錯体が大きく増大したことを示している。一方Lac錯体ではこの様な変化は観測されなかった。また、硫酸塩を添加した場合では、両錯体のΛ型錯体の濃度が共に大きく増大した。これらの結果は、錯体が有する糖構造の違いによって塩に対する応答性が異なることを示している。また各糖鎖と塩の組み合わせにおいて、カチオン種の違いはCDスペクトル変化に全く影響を及ぼさず、上記スペクトル変化がアニオン種による効果であることも示された。
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Tetrahedron
巻: 72 ページ: 5456-5464
org/10.1016/j.tet.2016.07.026