研究課題/領域番号 |
25810106
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
渡辺 賢司 九州大学, 薬学研究科(研究院), 特任助教 (90631937)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 硫化水素 / シアン化物イオン / 鉄ポルフィリン / シクロデキストリン / 包接錯体 |
研究概要 |
硫化水素(H2S)は一般に有毒ガスとして知られているが, 生体内では腎臓や肝臓等で微量に合成され, 有用な反応を司っている. しかし, その詳細な機構は未解明な部分が多い. 我々の研究グループは, 鉄ポルフィリンとシクロデキストリン二量体から成る包接錯体(hemoCD)が水中でヘムタンパク質モデルとして機能し, ハロゲン化物イオン, アジ化物イオン, シアン化物イオン, 酸素分子, 一酸化窒素及び一酸化炭素を捕捉する事を報告している. そのため, hemoCDは類似のアニオンであるSH-やその共役酸のH2Sに対して強い捕捉能を持つ可能性がある. H2Sレセプターとして有用な知見が得られれば, 生体内でのH2Sとヘムタンパク質の関与する反応の機構解明に貢献できる. 本研究では, Fe(III)のmet-hemoCD3を用いて, pHやH2Sの当量比を変化させることでレセプター分子との反応性及び結合様式の評価を行った. 凍結脱気処理を行ったmet-hemoCD3を含む緩衝水溶液に, SH-供与体としてNaSHを加え, 各種分光測定を行った. 紫外可視吸収(UV-vis)スペクトルからpH 6でmet-hemoCD3とSH-が最も高い反応性を示すことが分かった. 次にpH 6でmet-hemoCD3にNaSHを加えた試料のEPRスペクトルを測定し, SH-存在下でのFeのスピン状態を検討した. NaSHを加える前後において, Fe(III)が高スピン状態から低スピン状態に変化し, Fe(III)-SH錯体由来のスペクトルが得られた. 一方, Fe(II)のdeoxy-hemoCD3にNaSHを加えた試料においてはEPRスペクトルがサイレントであり, UV-visスペクトルでも極大吸収波長の変化は見られず, Fe(II)ではSH-は配位しないことが明らかとなった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の基となるレセプター分子hemoCD3については, 共同研究者と供に構成分子の新規シクロデキストリン二量体の合成, 錯体のX線構造解析, 基礎的なリガンド(酸素分子, 一酸化炭素分子, シアン化物イオン, アジ化物イオン)捕捉能及びラット体内でのシアン化物イオンの捕捉能について検討し, 論文報告を行った (Watanabe, K. et al. Angew. Chem. Int. Ed. 2013, 52, 6894). 上記の研究成果を踏まえて平成25年度では, hemoCD3と硫化水素(H2S)との相互作用に関する基礎的な実験を行った. 鉄(III)のmet-hemoCD3はH2Sと嫌気下でほぼ定量的に錯形成し, Fe(III)-SH錯体を生成することが分かった. 一方, 生成したFe(III)-SH錯体は酸素分子または一酸化炭素分子存在下では速やかに配位子交換を起こし, 対応するFe(II)の錯体へと変換されることが明らかとなった. また, H2Sは酸素錯体と反応性を示し, 酸素錯体からFe(III)-SH錯体が生成することが分かった. 前述の実験結果は, ヘムタンパク質モデルとH2Sとの反応に関して有用な基礎的知見を与えるものであり, 本結果に関して論文発表の準備中である.
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度では, ヘムタンパク質モデルと硫化水素(H2S)との反応に関する基礎的な知見を基に, 化学的及び生物学的な応用の可能性について検討を行う. 特にH2Sは生体内では微量に存在するものの, 外部から急速に吸入した際に極めて高い毒性を示し, いまだ効果的な対処法が見つかっていないことから, 本レセプターのH2S中毒症状の解毒剤への応用が期待される. また, Fe(III)-SH錯体は好気下では酸素分子に対して高い反応性を示すことから, 触媒的にH2Sを変換できる可能性があり, 化学的な基礎研究も引き続き行う. 一方, 本レセプターは生体内でのシアン化物イオン(CN-)の捕捉・除去についても高い性能を持ち, シアン中毒解毒剤としての応用研究が進められている. しかしながら, レセプターの分子量が比較的大きく, また生成するCN錯体が極めて安定であることから, CN-に対して等量以上のレセプターが必要である. これらの課題を解決するために有毒なCN-をより毒性の低い無機アニオンへと触媒的に変換する簡略な系の構築を目指す. 平成27年度は基礎研究に引き続き, 応用研究と両輪に本課題研究を展開してゆく.
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度では, 比較的基礎的な内容の学術研究を展開したが, 平成26年度はより応用的な研究や新規触媒系の構築を行ってゆく予定である. 触媒反応の開発では, 比較的高価な安定同位体を基質に用い, 核磁気共鳴装置を用いて定量実験等を行う予定であり, 平成26年度分使用分の一部を温存し, 平成27年度分に割り当てた. 研究計画を遂行するにあたり, 有機合成試薬, 安定同位体試薬, 精製用の有機溶媒, HPLC 用カラム及びガラス器具が研究に必須であり, 消耗品費の大部分として申請する. また, 関連研究分野の学術的な最新情報を得るため, 及び及び自らの研究結果を広く公表するために各種学会への参加が必要であり, そのための旅費を申請する. 前年度において使用する予定であった研究費の繰り越し分の一部は, 消耗品や論文投稿の際の印刷費等に割り当てる予定である.
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