研究実績の概要 |
硫化水素(H2S)は一般に有毒ガスとして知られているが、生体内では腎臓や肝臓で微量に合成され、有用な反応を司っている。しかし、その詳細な機構は未解明な部分が多い。我々の研究グループは、鉄ポルフィリンとシクロデキストリン二量体から成る包接錯体(hemoCD)が水中でヘムタンパク質モデルとして機能し、種々の無機アニオン、アジ化物イオン、酸素分子、一酸化窒素及び一酸化炭素を捕捉することを報告している。このため、hemoCDは類似のアニオンであるSH-やH2Sに対して強い捕捉能を持つ可能性があった。 平成26年度では、25年度に引き続きhemoCD3とH2Sとの相互作用に関する研究を行った。鉄(III)のmet-hemoCD3はH2Sと嫌気下で定量的に錯形成し、Fe(III)-SH錯体を生成することが分かった。一方、生成したFe(III)-SH錯体は酸素分子または一酸化炭素分子存在下では速やかに配位子交換を起こし、対応するFe(II)の酸素/一酸化炭素錯体へと変換されることが明らかとなった。また、Fe(II)の酸素錯体はH2Sと反応性を示し、Fe(III)-SH錯体を再生することが分かった。本結果は、hemoCD3がH2Sを触媒的に分解することを示唆する結果であり、ヘムタンパク質とH2Sとの反応に関する有用な基礎的知見が得られた(論文公表済:Chem. Commun. 2015, 51, 4059)。 本研究の基となるレセプター分子hemoCD3については構成分子であるシクロデキストリン二量体の合成、錯体のX線構造解析、基礎的なリガンド(酸素分子、一酸化炭素分子、シアン化物イオン、アジ化物イオン)の捕捉能及びラット体内でのシアン化物イオンの捕捉について検討し、別報で既に論文公表している(Angew. Chem. Int. Ed. 2013, 52, 6894)。
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