研究課題
若手研究(B)
実用的な有機半導体材料の創成に向け,高移動度を示す材料として,典型元素を導入した新たなW字型分子を設計した.合成ルートを検討の結果,新規W字型π電子コアの合成法の開発に成功した.特に,鍵となるルイス酸を用いた芳香環形成反応は,DMFなどの極性溶媒を用いることで鍵反応が定量的に進行することを見いだした.また,得られた新規W字型π電子コアの単結晶をPhysical Vapor Transport(PVT)法により作成し,X線結晶構造解析を行った結果,コアが完全に揃ったヘリングボーン型のパッキング構造を形成していることを明らかとした.コアが完全に重なることで,分子間の軌道間相互作用が有効的に働くため,このようなパッキング構造はキャリア伝導に優れた材料であることが期待された.そこで,得られたパッキング構造を用いてキャリア輸送能をバンド計算により見積もったところ,有効質量は非常に小さいものであった.この値は移動度40cm/Vsを示すルブレンの有効質量に迫る値であり,このことは,キャリア伝導に有利なコアが揃ったヘリングボーン型構造を形成し,かつ,W字型分子が有する特異な分子軌道に起因するものと考えられる.一方で,π電子コア自身はHOMO準位が深いため,実際に単結晶トランジスタを評価した結果,非常に閾値電圧が大きくその性能を発揮できていないことが明らかとなった.そこで,化学修飾によるエネルギー準位を制御する観点で,選択的官能基化の条件を検討し,様々な置換基を導入した.種々合成した化合物を用いたトランジスタ特性の評価の結果,高溶解性を有し,かつ高いHOMO準位を有するW字型誘導体は,塗布プロセスにより最高で移動度10cm/Vsの高移動度を示した.
1: 当初の計画以上に進展している
平成25年度の研究計画においては,新規W字型π電子コアの合成法の開発がメインであり,かつ最高で移動度10cm2/Vsの移動度を有するトランジスタが実現できているため,当初の目的は完遂している.具体的には,鍵となる芳香環形成反応の触媒条件の最適化により,ほぼ定量的に目的物が得られる条件を見いだしている.さらに,当初計画していた反応経路をさらに短縮できる合成法を開発し,スケールアップにも適していることがわかっている.本合成法を駆使することで,さまざまな典型元素を有するπ電子コアの開発まで現在進行している.また,基礎物性として,光物性や,電気化学測定により新規W字型π電子コアの性質も明らかとしている.特に,半導体特性の重要な指標である移動度を見積もるために,コアの集合体構造をX線結晶構造解析により明らかとし,得られた集合体構造を基にバンド計算を行い有効質量を算出したところ,移動度10cm/Vsを超えるポテンシャルを有することを見いだしている.実際に,合成したW字型誘導体のトランジスタ特性を溶液塗布プロセスにより検討を行った.適切なアルキル鎖長を有する官能基を導入することで,十分な溶解性を有し,かつ均質な単結晶薄膜が得られ,移動度10cm/Vsを示すことを明らかとした.以上,溶液塗布プロセスを指向した高移動度有機半導体材料の創成を目的とした平成25年度の研究計画は達成できており,さらに新たな誘導体の合成法の開発まで進んでおり,当初の研究計画以上に進展していると言える.
平成26年度の研究計画は,更なる移動度向上のアプローチと薄膜作成プロセスを容易とするポリマーへと展開する予定である.具体的には,平成25年度に合成した新規W字型π電子コアのハロゲン化誘導体を合成モジュールとし,側鎖として水素結合部位を有するユニットを導入し,集合体におけるコア同士の分子間距離をより密とし移動度の向上を図る.また,鍵となる合成モジュールはポリマーへの展開にも非常に有用である.そこでこれを用いたさまざまな可溶性ポリマーを合成し,配向性の高い薄膜を検討する予定である.実験手法としてはGrazing Incidence X-ray Dffraction(GIXRD)法などにより,基板上でのポリマーの配向性を明らかとする.さらに,研究代表者が所属する研究室は,有機合成化学,デバイス工学,ならび物性物理の3グループにより構成されており,共同して高移動度材料のキャリア伝導機構を明らかとし,さらなる性能向上のための分子設計指針を明らかとする予定である.
すべて 2014 2013
すべて 雑誌論文 (7件) (うち査読あり 7件) 学会発表 (13件)
Chem. Commun.
巻: 50 ページ: 5342-5344
DOI: 10.1039/C3CC47577H
Org. Electron.
巻: 15 ページ: 1184-1188
DOI: 10.1016/j.orgel.2014.02.028
Jpn. J. Appl. Phys.
巻: 52 ページ: 05DC10
DOI: 10.7567/JJAP.52.05DC10
Chem. Lett.
巻: 42 ページ: 654-656
DOI: 10.1246/cl.130133
Appl. Phys. Express
巻: 6 ページ: 076503
DOI: 10.7567/APEX.6.076503
Adv. Mater.
巻: 25 ページ: 6392-6397
DOI: 10.1002/adma.201302086
Chem. Mater.
巻: 25 ページ: 3952-3956
DOI: 10.1021/cm303376g