研究概要 |
本研究課題の目的は、絹フィブロインの繊維化プロセスにおける凝集コントロール機構の解明である。絹フィブロイン中の非繰り返し領域の立体構造に着目しているが、それを達成するには、まず、絹フィブロインの主要構成要素である繰り返し領域の立体構造決定ならびにNMR法における化学シフトの決定を行う必要がある。 そこで本年度は、家蚕体内に貯蔵されている液状絹を溶液NMR法を用いて構造解析を行い、絹フィブロイン中の繰り返し配列の立体構造決定という成果をあげた。 具体的には、液状絹を家蚕から取り出し、溶液NMR用試料管に封入し溶液NMR測定を行った。各種測定から、家蚕絹一次構造の主成分である繰り返し配列Gly-Ala-Gly-Xaa-Gly-Ala (X=Ala, Ser, Tyr, Val)中の各アミノ酸残基の水素・炭素・窒素化学シフトの帰属を行うことができた。一方、Gly-Ala-Ala-Ser-Gly-Ala配列は、特定の構造をとらないランダムコイルであることがわかった。さらに、化学シフトを構造予測プログラムtalosにインプットすることでGAGXGAG配列の立体構造の検討を行った。その結果、X = Ala, Ser, Tyr, ValそれぞれTypeII b-turnの繰り返し構造に近い構造であることが明らかとなった。 本研究成果の意義は以下の点である。①液状絹状態における、絹フィブロイン中の繰り返し領域の立体構造を決定した ②液状絹そのものの溶液NMRによる解析が可能であることを示した ③非繰り返し領域(マイナーピーク)の帰属・解析を行っていく上で必須である、絹中の90%以上を占める繰り返し領域(GAGXGA)(X=A, S, Y, V)の各アミノ酸残基の帰属を達成した。 本研究成果は、国際誌に投稿し受理された。(Biomacromolecules 2014(15)p104-112)
|
今後の研究の推進方策 |
今後は、非繰り返しドメインの解析を中心に行っていく。具体的には、来年度は以下の点を進める。(1)H鎖N末端、C末端ドメイン、及びL鎖の大腸菌大量発現系の構築を行う。 立体構造を決定するためのNMR 解析に用いる家蚕絹フィブロインH鎖、L鎖の組換えタンパク質を得る為、大腸菌を用いた各タンパク質の大量発現系の構築を行う。まずは、pET28a の発現ベクターを用いて遺伝子改変プラスミドを作成する。家蚕(Bombyx mori)は既にゲノムが明らかとなっており、家蚕絹フィブロインH鎖、L鎖のcDNA 配列はこれを用いる。プラスミドを大腸菌に形質転換し、タンパク質を大量生産し、Ni-NTA カラムおよびゲル濾過カラムで精製する。各タンパク質はオリゴマーを形成することが予想される。大腸菌内での凝集により発現が困難な場合には、無細胞タンパク質合成(細胞抽出液、アミノ酸、目的タンパク質の遺伝子等を加え、試験管内でタンパク質を合成)を行う。 次に、安定同位体ラベルタンパク質の生産と、溶液NMRによる立体構造決定を行う。構築した大腸菌大量発現系を用いて13C, 15N 安定同位体ラベルラベルタンパク質を生産する。多次元溶液NMR法を用いて各ドメインタンパク質の立体構造決定を行う。具体的には、1H-13C HSQC,1H-15N HSQC 測定により各炭素原子、窒素原子の帰属、HCACO, HNCO 測定によりカルボニル炭素、アミド水素の帰属を行う。これらの帰属結果と、1H-1H NOESY, TOCSY 測定結果を合わせ、すべての水素原子の帰属を行う。このようにして決定した各原子の化学シフトと水素核間の距離情報から、各タンパク質の立体構造を決定する。
|