研究実績の概要 |
25年度の調査から、33残基のサルコシンを有するA3B型両親媒性分子(S33A3B)からなるラクトソームが頻回投与においてもABC現象を抑制できた一方で、A3B+AB混合ラクトソームでは抗体産生がみられ、親水鎖層の密度以外もABC現象発現に影響することがわかった。そこで、26年度はさらに踏み込んで、サルコシンの長さの異なる5種のラクトソーム(S10A3B, S23A3B, S33A3B, S55A3B, S85A3B)を調製しこれらの物性、その血中半減期、およびABC現象の有無の関係性を求めた。 放射性同位元素標識において必要となる、キレート剤DOTAをポリ乳酸に導入した化合物DOTA-PDLAを合成し、放射性同位元素111インジウム(In)の標識法の確立(標識効率60%)、In標識ラクトソームの調製に成功した。この標識ラクトソームをマウスに投与し、経時的な各組織の線量を追跡することでラクトソームの体内動態を評価した。 5種のラクトソームはサイズ(20-30nm)に違いは無かったが、その内部構造は大きく異なり、サルコシンが短い方が表面サルコシン密度は高く、サルコシンが長い方がサルコシン層は厚いことがわかった。それぞれの血中半減期はいずれも6-8時間程度であり差がみられなかった。一方で、S10A3BとS85A3Bのラクトソームにだけ明確なABC現象が確認された。in vivo蛍光イメージング、抗体産生量測定の結果も同様であった。このことから従来報告されていた表面の親水鎖層の密度はもちろん、親水鎖層の厚みもABC現象回避には重要であることを初めて明らかにした。 またテーマBとして行った治療実験においては、DOTAを用いてベータ線核種である90Yの導入には成功し、実際マウスへの毒性もなく、固形癌の成長を遅らせることに成功したものの、その効果は既存の抗癌剤には及ばず改善が必要である。
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