酸化チタンは防汚・浄化技術や、色素増感太陽電池、化学センサーなど様々な分野に応用されているが、その多くは結晶化や焼結のために450ºC程度での熱処理が必要である。これに対し、申請者はこれまで熱処理を必要としないリン酸含有高温グリセリン溶液中でのチタン基板のアノード酸化により、アナターゼ型結晶を含む酸化チタンメソポーラス薄膜(TMP薄膜)の合成に成功している。しかしアモルファスも多く含んでおり、更なる高結晶化が必要なのが現状である。そこで本研究では、結晶化を支配する要因を解明し、熱処理を必要としない高結晶性酸化チタンメソポーラス薄膜の合成を目的とする。 前年度に引き続き、「アノード酸化法を利用したTMP薄膜合成における結晶化支配要因の解明」について研究を進めた。昨年度導入した三電極系により、広い電位領域での動電位アノード酸化を行った。その結果10 V以上で電流-電位曲線に変化が現れ、それと同時に結晶化することを明らかにした。またリン酸種が皮膜中に取り込まれる量は電位に依存して変化し、一定の値以上のリン酸種を取り込むことが結晶化を引き起こしていることが示唆された。 また「TMP薄膜の結晶性の向上」について、アノード酸化時のプロトン濃度を上げることで、電流値の抑制を行い20 V以上でのアノード酸化による結晶化の促進を試みた。これにより、TMP薄膜の高結晶化に成功した。また80 V以上の電圧では、結晶化は促進されるものの膜の絶縁破壊が起き、利用できるTMP薄膜を合成するには80 V未満でのアノード酸化が重要であることを明らかにした。一方、他の塩の効果を明らかにするために、バリヤー皮膜において結晶化が報告されている硫酸塩添加でのアノード酸化も試みた。これにより、皮膜の溶解反応が促進されることを見出し、今後の結晶性皮膜の構造制御を行う上での新たな指針を得ることができた。
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