研究課題/領域番号 |
25810141
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 鳥取大学 |
研究代表者 |
薄井 洋行 鳥取大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (60423240)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | リチウム二次電池 / イオン液体電解液 / ケイ素負極 |
研究概要 |
次世代Li二次電池用の高容量負極であるSiはLiの吸蔵-放出の際に大きな体積変化を示しこれが活物質層の崩壊を引き起こすため,充放電サイクル寿命に乏しいという欠点を持つ.これを解決するには,適切な電極-電解液界面を構築する工夫が求められる.本研究では,イオン液体の構造中に種々の官能基を導入することでLiイオンがスムーズに移動できる界面を構築できると考え,イオン液体電解液の適用によるSi系負極の性能向上に取り組んだ.Li塩としてこれまで検討してきたlithium bis(trifluoromethanesulfonyl) amide(LiTFSA)に加え,lithium bis(fluorosulfonyl)amide(LiFSA)を用いたイオン液体電解液を,バインダーフリー電極であるSiガスデポジション負極に適用し,これらのアニオンの違いがその負極性能に与える影響を調査した. LiFSA塩を用いた場合において,LiTFSA塩を用いた系や従来の有機溶媒電解液と比較して高い放電(Li脱離)容量が得られた.LiFSAが溶解した電解液では,Liイオンに対しTFSAアニオンだけでなくFSAアニオンも溶媒和していると考えられる.FSAはTFSAに比べ,Liイオンとの相互作用が弱く脱溶媒和しやすいアニオンであるため,これが電極-電解液界面でのLiイオン移動をよりスムーズにさせることで充放電容量が増加したものと推測した.また,有機溶媒電解液では100サイクルまでに急激な容量衰退が見られたのに対し,イオン液体電解液ではいずれの場合もこの容量衰退が改善されることがわかった.これは,イオン液体の分解により負極表面に形成される被膜は有機溶媒の分解で生じるものよりも均一で薄いため,活物質層へのLi挿入-脱離が負極表面の全体で均一に起こることでその崩壊が抑制されたためであると考えられる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまで導電助剤や結着剤を含まないSi負極の性能に対して,イオン液体電解液のアニオンが与える効果は系統的に調査されていなかったが,本研究では電解液に用いるLi塩をlithium bis(trifluoromethanesulfonyl) amide(LiTFSA)からlithium bis(fluorosulfonyl)amide(LiFSA)に替えることで,負極性能が大きく改善することを明らかにできた.本研究では,従来法とは異なり導電助剤や結着剤等を用いずにSiのみからなる電極を作製できるところに大きな特長を有する.したがって,今回の結果は,純粋にSi活物質層とイオン液体電解液のみの相互作用を吟味できる系となっており,アニオン構造が電極反応のメカニズムに与える影響を直接評価できたと言える.
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今後の研究の推進方策 |
革新的な高容量を有する次世代負極を開発するためには,従来の炭素系負極からSiを初めとする金属・合金系負極への転換が不可欠である.しかしながら,これらの活物質は充放電時に体積変化をともないサイクル安定性を低下させる.したがって,体積変化による電極崩壊を抑制できる別の活物質との複合化を検討するとともに,そういったSi系複合電極へのイオン液体電解液の適応性についても調べる予定である.また,今後はLi塩だけでなく,電解液に用いるイオン液体(溶媒)のアニオンについてもその構造が負極性能に与える効果を調査したい.
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次年度の研究費の使用計画 |
学会・研究会等の情報収集の回数を当初の予定よりも減らし,研究の遂行に注力したことで 良い研究成果が早期に得られた.また,これにより消耗品(特に高額な電解液)の使用量を低く抑えることができたことにより,物品費と旅費が当該年度申請額よりも少なくて済んだため. 本研究を進めるにあたって最も重要な試薬であるイオン液体は,比較的高額な消耗品であるため,主にこれを購入する費用に重要したい.また,蓄電池の分野は技術開発の競争が激しいため,学会や研究会等へ積極的に参加して情報収集を行うための旅費にも充てる予定である.
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