研究課題/領域番号 |
25820003
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
大見 敏仁 東北大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (90586489)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 水素脆化 / 拡散 / 濃度分布 / 疲労 / 加工効果 / 数値解析 |
研究概要 |
近年,水素エネルギー利用の実現が期待されているが,水素は材料中に侵入し水素脆化現象を誘起させる。この水素脆化メカニズムは完全には解明されていないが,材料内で局所的に水素の濃度が増加することで水素脆化が誘起されることは確かであり,しかも極微量の水素によって引き起こされる。従って,水素脆化の要因である水素濃度の増加メカニズムを解明し,これを制御することが可能となれば水素脆化を防止することも可能といえる。 材料内の水素濃度分布の実験的観察は困難であるため,本研究では数値解析を用いて水素濃度分布を求めた。材料内の水素は,静水圧応力(3軸応力)の勾配による拡散駆動力を受け,拡散凝集することが実験的に知られている。この応力誘起拡散現象は物質輸送の現象論的記述によりすでに定式化され,コンピュータによる数値シミュレーションが可能である。 平成25年度は,このプログラムを基に数値解析の精度検討・向上を行い,水素拡散凝集挙動に及ぼす力学特性(降伏応力,加工硬化係数,温度や負荷応力などの依存性)を系統的に明らかにした。特に加工効果係数について詳細な検討を加え,水素濃度凝集を抑制するための条件を明らかにした。 さらに本研究では,上記のシミュレーションに実験的検証を加えるため水素を封入した試験片で疲労試験を行う。本試験方法では,水素チャージ時に応力集中状態を維持することで水素を固定している。これは水素が応力誘起拡散現象に従うことを利用した手法である。平成25年度は,この試験方法を用いて,ステンレスの水素脆化試験を行うための予備試験も行った。この予備試験により,水素チャージ時の温度条件などの新たなノウハウを得ることに成功した。これにより平成26年度の水素脆化試験法をより円滑に実行できるものと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
・物性値を系統的に変化させた数値解析により,より現実的な材料の物性を想定した計算結果を得ることができた。 ・他鋼種で実績のある実験手法をステンレス鋼に対しても行う予備試験により,実験方法の問題点や実験条件などのノウハウを得ることができた。 ・実験方法に依存して水素拡散挙動が異なることを数値計算的に示したが,これと実際のき裂成長速度との関係を明らかにする必要がある。次年度はこの点にも着目し引き続き数値解析を行う。
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今後の研究の推進方策 |
予定通り平成26年度は水素脆化試験を中心に研究を遂行する。予備試験によりステンレス鋼での実験が可能となったので,引き続き水素チャージした小型試験片を用いた疲労き裂成長試験を行う。試験後,試験片の破面観察や材料組織観察をし,破壊経路観察や試験結果を比較することで,水素脆化の破壊メカニズムの分類を行う予定である。 上記の結果に基づき,材料の耐水素脆化特性の定量的評価手法について検討を行う。この際,提唱されている水素脆化メカニズムと本実験の結果とを比較しながら,水素脆化メカニズムの発現条件や水素脆化敏感性を系統的に整理することを目指す。 また平成25年度の研究で,1軸引張や3点曲げ試験など,試験方法に依存して水素凝集挙動が異なる可能性が数値解析により明らかとなった。これは同一材料であっても試験方法により水素脆化挙動が異なる可能性を示唆するものであり,他の水素脆化研究との比較を行う上で非常に重要な知見である。そこで,当初の研究計画に加え,引き続き数値計算を行い,試験方法と水素脆化挙動の関係を調査する。
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次年度の研究費の使用計画 |
・当初は計算機の購入を予定していたが、予定を延期した。これは予定通り購入したコンパイラの導入及び導入後の移行に手間取った(日本語環境化や異なるコンパイラ間での計算結果の検証など)ためである。 ・25年度の予備実験は,概ね研究室の既存の実験装置や実験器具を用いて行うことができた。 ・25年度は英文論文校閲などの人件費・謝金を節約した。 ・現在は新しいコンパイラへの移行が完了し,この新しいコンパイラの性能を発揮できる計算機を購入する意義が明確になった。引き続き行う数値計算のため,今年度の購入を予定している。 ・予備実験により,実験に必要な物品などを確定できたので,必要に応じて購入を進めていく。 ・26年度は必要に応じて英文論文校閲を依頼する。また,学会での成果報告のための旅費として活用する。
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