本研究は650℃以上の高温環境下でも従来の特性を損なうことなく使用できるDLC膜を実現すること,およびそれを可能にするメカニズムの解明を目的としている.昨年度は種々の添加率に調整したSi添加DLC膜を作製し,400~800℃の環境下で摩擦係数が劣化しないこと,硬度は劣化することを明らかにした. 本年度はさらにSi添加率を細かく調整した試料を作製し,Si添加率と摩擦係数および膜硬度との関係を明らかにした.その結果,Si添加率が10~12.5at.%の範囲において1000℃の高温環境下においても摩擦係数が劣化しないことを明らかにした.しかし,膜硬度に関してはこの範囲において600℃以上で劣化することが分かった.一方耐熱性改善メカニズムの解明に関しては,FIB加工装置を使ったTEM試料の作製には成功したものの,TEM観察および微細構造を分析するには至らなかった. 本研究で開発を予定していたスパッタリング成膜/プラズマイオン注入成膜複合装置の設計を行なった.特に重要となるパルス電源の仕様を決定し,パルス電源の設計・製作・動作確認を行なったうえで複合装置に設置した.また,パルス電圧印加機構部には既存のスパッタ源を応用することで,装置を簡略化した.これらの機構をすべて組み込んだ複合装置を完成させ,設置したスパッタリング機構およびプラズマイオン注入成膜機構それぞれの動作を確認するまでを実施した.
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