本研究は,材料の変形・破壊時に発生する弾性波を検出するアコースティックエミッション法(AE法)を利用して,通電下のトライボロジー現象(摩擦・摩耗,溶融・放電)の認識と損耗状態の定量的評価を目的としている.通電に伴う損耗は,集電材料の摩耗を急激に進行させるため,その診断評価技術の確立は大きな意義がある.また,通電下の損耗現象を顕微鏡視野内で拡大観察すると同時にAE信号の計測を行う本実験手法は,世界的にも例がなく,非常に特色のある研究になると考える. 平成27年度は,実験装置に押付け荷重および光量の計測系を追加し,異なる通電摩擦条件で摩擦界面のin situ観察を実施した.このin situ観察実験から,押付け荷重が小さく,摩擦速度が大きいほど溶融・放電が起こる頻度が増加し,表面の損傷が大きくなることがわかった.本計測条件下では,溶融発生時のAE平均値電圧変化は1~1.5 mVと小さかったが,放電発生時は250 mVと大きな変化を示した.このとき,試験片同士が触れる瞬間または離れる瞬間に放電現象が連続的に生じ,AE平均値電圧は徐々に上昇していく傾向が多くの実験で確認された.また,炭素系材料を用いた長距離摩擦実験を実施し,摩耗量,電圧変化,損傷状態すべてにおいて銅系焼結合金と鉄系焼結合金よりも優れており,検出されるAE信号の振幅値も小さいことが確認された.さらに,雨天を想定した水滴滴下の長距離摩擦実験を行い,雨天では放電や溶融がほとんど起こらないという結果が得られた.これまでに得られている放電時に検出される高周波のAE信号と溶融時に検出される低周波のAE信号は,機械的な摩耗で発生する中周波のAE信号と複合的に計測されることがわかった.本研究において提案したAE信号振幅と周波数の関係をあらわすAE信号-損耗現象マップを用いて,損耗モードの診断が可能であり,AE信号の振幅値から摩擦面損傷状態の定量的評価が可能になる.
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